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馬の文献:炎症性気道疾患(Read et al. 2012)

「炎症性気道疾患の罹患馬におけるクレンブテロールの持続的投与による気道反応性および発汗への影響」
Read JR, Boston RC, Abraham G, Bauquier SH, Soma LR, Nolen-Walston RD. Effect of prolonged administration of clenbuterol on airway reactivity and sweating in horses with inflammatory airway disease. Am J Vet Res. 2012; 73(1): 140-145.

この研究では、馬の炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease)に有用な治療法を検討するため、八頭の炎症性気道疾患の罹患馬に対して、三週間にわたるクレンブテロールまたは生食の持続的投与(Prolonged administration)を行い、それを、一ヶ月の休薬期間(Washout period)をはさんでの交差試験(Cross-over testing)として実施して、その後に、容積変動流速計測法(Flowmetric plethysmography)およびヒスタミン気管支吸入誘発試験(Histamine broncho-provocation test)による肺機能評価(Lung function assessment)と、エピネフリンの皮内注射(Intradermal injection)による発汗機能(Sweating function)の評価が行われました。

結果としては、総気道閉塞を35%増加させるのに必要なヒスタミン濃度(Concentration of histamine required to increase total airway obstruction by 35%: PC35)を薬剤の判定指標とした場合、クレンブテロール投与開始から14日目までには、生食投与時に比べて、このPC35値が有意に増加しており、吸引ヒスタミンへの気道反応性(Airway reactivity)が、クレンブテロールによって減退された事が示されました。しかし、八頭の実験馬のうち七頭において、クレンブテロール投与開始から21日目までには、PC35値が基底値(Baseline value)よりもむしろ減少しており、クレンブテロールの持続的投与に起因して、急速耐性(タキフィラキシー:Tachyphylaxis)が発生したことが示されました。このため、炎症性気道疾患の罹患馬に対しては、クレンブテロールの持続的投与によって、気管支拡張作用(Bronchodilatory effects)という薬剤の効能が、二~三週間で急速に失われる事が示唆されました。

一般的に、クレンブテロールは、ベータ2アドレナリン受容体作動薬(Beta-2 adrenoceptor agonist)として、可逆性気管支痙攣(Reversible bronchospasm)の改善効果を有し、馬に対しては、回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)および炎症性気道疾患の治療に用いられています(Erichsen et al. EVJ. 1994;26:331, Mair. Vet Rec. 1996;138:89, Couetil et al. JVIM. 2007;21:356)。しかし、人間の喘息患者(Asthmatic human patients)への持続的投与では、顕著なタキフィラキシーを生じることが知られており、これは、副作用(Adverse effect)の発現に関しては良い性状(Positive attribute)であるとも言えますが、気管支拡張作用(Bronchodilatory effects)の効能が減退するため、同一の投与濃度を続けている場合には、呼吸器症状の悪化につながるケースもあります。また、クレンブテロールには、抗炎症作用(Anti-inflammatory effect)もあり、馬を含めた多くの動物種において、杯細胞の粘液生成を減少(Decrease in mucus production by goblet cells)させる効能も示されています(Laan et al. Vet J. 2006;171:429, Van den Hoven et al. Vet Res Commun. 2006;30:921)。

この研究では、クレンブテロールおよび生食のいずれの投与時においても、エピネフリンの皮内注射による発汗機能は、有意には変化していませんでした。この理由としては、汗腺のベータ2受容体(Sweat gland beta-2 adrenoceptors)に対する刺激が不十分であったため、薬剤による下方制御(Down-regulation)が明確には示されなかったこと、もしくは、発汗試験の感度が不十分(Insufficient sensitivity of the sweat test)であったこと、等が挙げられています。今回の研究で用いられた試験法は、臨床的に有意性(Clinically relevant)のある、無汗症(Anhidrosis)または発汗減少症(Hypohidrosis)の診断に応用されていますが(Evans. Br Vet J. 1966;122:117, Selvaraj et al. Indian Vet J. 2001;78:790)、薬剤の有害作用に起因するような、軽度の発汗異常を探知するには、診断能が充分に高くなかった可能性が指摘されています。

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