馬の文献:冠関節固定術(Schaer et al. 2001)
文献 - 2023年01月26日 (木)

「22頭の馬における冠関節固定術」
Schaer TP, Bramlage LR, Embertson RM, Hance S. Proximal interphalangeal arthrodesis in 22 horses. Equine Vet J. 2001; 33(4): 360-365.
この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis: Proximal interphalangeal arthrodesis)の治療効果を評価するため、1986~1998年にかけて、冠関節の慢性骨関節炎(Chronic osteoarthritis)や繋部の重度外傷(Severe traumatic injury of pastern)の外科的治療のために、冠関節固定術が応用された22頭の患馬の医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、螺子固定のみによる冠関節固定術が行われた患馬では、前肢の場合には50%(3/6頭)、後肢の場合には88%(7/8頭)の馬が健常状態(Soundness)まで回復したのに対して、螺子固定とプレート固定が併用された患馬では、前肢の場合には50%(1/2頭)、後肢の場合には80%(4/5頭)の馬が健常状態まで回復したことが報告されています。このため、短期生存率(Short-term survival rate)は71%(15/21頭)で、冠関節固定術による外科的療法では、比較的に良好な予後が期待されることが示唆されました。また、馬の冠関節固定術では、後肢のほうが前肢よりも予後が良い傾向が見られましたが、二つの術式の違い自体は、その予後には顕著に影響しないと考えられました。
一般的に、馬における冠関節固定術は、冠関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)および中節骨骨折(Middle phalanx fracture)などの治療に応用されます。この研究では、22頭の患馬のうち、15頭が冠関節の慢性骨関節炎を呈し、残りの7頭が繋部外傷を呈し、冠関節の慢性骨関節炎の罹患馬のほうが、繋部外傷の罹患馬よりも予後が良い傾向が示されました。また、中節骨における重度の粉砕骨折(Severe comminuted fracture)は除外されています。つまりこの研究では、冠関節の支持機能を担う周辺軟部組織(Peri-articular soft tissue)の機能が極度に失われた患馬はあまり含まれていないと考えられ、これが比較的に良好な予後を示した要因の一つである可能性もあります。このため、今後の研究では、重度の骨折症例などの医療記録を解析することで、冠関節の安定性(Pastern joint stability)が損失した症例に対して、どの術式の冠関節固定術を用いるべきかを検証する必要があると考察されています。
この研究では、螺子固定のみによる冠関節固定術が行われた患馬では、遠肢ギプス(Distal limb cast)の装着を要した期間は平均13週間、跛行が消失するまでに要した期間は平均12ヶ月であったのに対して、螺子固定とプレート固定が併用された患馬では、遠肢ギプスの装着を要した期間は平均5週間、跛行が消失するまでに要した期間は平均8ヶ月というように、有意に短期間であったことが報告されています。また、螺子固定のみの術式では、二頭の患馬における術後レントゲン検査(Post-operative radiography)によって、インプラントの損傷(Implant failure)が確認されました。これは、螺子固定とプレート固定を併用した術式のほうが、より堅固な冠関節の不動化(Stabilization)を達成でき、短期間での治癒につながったためと考察されています。
Photo courtesy of Equine Vet J. 2001; 33(4): 360-365.
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