馬の文献:冠関節固定術(Watt et al. 2001)
文献 - 2023年01月27日 (金)

「馬の冠関節固定術:三本の4.5mm皮質骨螺子と二本の5.5mm皮質骨螺子の生体力学的比較」
Watt BC, Edwards RB 3rd, Markel MD, McCabe R, Wilson DG. Arthrodesis of the equine proximal interphalangeal joint: a biomechanical comparison of three 4.5-mm and two 5.5-mm cortical screws. Vet Surg. 2001; 30(3): 287-294.
この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)においてより強度の高い術式を評価するため、20本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、三本の4.5mm皮質骨螺子(Cortical screws)もしくは二本の5.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。
結果としては、冠関節固定部の屈曲性生体力学検査(Bending biomechanical testing)では、最大曲げモーメント(Maximum bending moment)や硬度(Stiffness)などにおいて、二つの術式のあいだに有意差は認められませんでした。このため、二本の5.5mm皮質骨螺子を用いた術式のほうが、手技的にも簡易で、三本の4.5mm皮質骨螺子を用いた術式と同程度の強度の関節固定術を達成できることが示唆されました。また、三本の4.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術が行われた肢では、53%(16/30本)の螺子が破損または屈曲したのに対して、二本の5.5mm皮質骨螺子による冠関節固定術が行われた肢では、25%(5/20本)の螺子が破損または屈曲したのみで、後者の術式のほうが有意に少ない数の螺子が損傷したことが報告されています。
この研究では、二本の5.5mm皮質骨螺子を用いた術式を見ると、前肢の冠関節固定術のほうが後肢の冠関節固定術に比べて、有意に高い最大曲げモーメントの計測値を示しました。この理由としては、(1)前肢の屍体肢では繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)が保たれていて、種子骨遠位靭帯(Distal sesamoidean ligament)による冠関節の支持機能が作用したこと、(2)前肢には深屈腱の副靭帯(Accessory ligament of the deep digital flexor tendon)(=遠位支持靭帯:Distal check ligament)が存在するので、掛けられた負荷の一部が深屈腱によっても中和されたこと、(3)馬の前肢には体重の六割以上が掛かるので、一般的に前肢のほうが後肢よりも強度の高い構造であったこと、の三つの要因が挙げられています。
この研究では、生体力学試験における手技的な誤差を減らすため、関節軟骨(Articular cartilage)を除去することなく冠関節固定術が施されました。しかし、実際の臨床症例に対する手術では、術後の骨癒合(Bony union)を促進するため関節軟骨を外科的に削切することが強く推奨されています。この際には、球状の形をしている基節骨遠位端(Distal region of proximal phalanx)では関節軟骨除去によって半径が減少し、受け皿状の形をしている中節骨の近位端(Proximal region of middle phalanx)では関節軟骨除去によって半径が増加することから、関節軟骨が除去された場合には二つの骨端の接触面積(Contact area)が少なくなると予想されます。このため、臨床上の冠関節固定術における手術直後の強度は、この研究の計測値よりも低くなる可能性があるという考察がなされています。
Photo courtesy of Vet Surg. 2001; 30(3): 287-294.
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