馬の文献:冠関節固定術(Knox et al. 2006)
文献 - 2023年01月30日 (月)

「プレートと螺子の併用による馬の冠関節固定術:1994~2003年の53症例」
Knox PM, Watkins JP. Proximal interphalangeal joint arthrodesis using a combination plate-screw technique in 53 horses (1994-2003). Equine Vet J. 2006; 38(6): 538-542.
この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より治療効果の高い術式を評価するため、1994~2003年において、プレート(DCP: Dynamic Compression Plate)と螺子の併用による冠関節固定術が応用された、53頭の患馬の医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、53頭の患馬のうち、経過追跡(Follow-up)が出来なかった七頭を除くと、治癒が達成された馬(=意図した使役への復帰を果たした馬)の割合は87%(40/46頭)で、また、騎乗使役された馬を見ても、85%(23/27頭)において意図したレベルの運動復帰が達成されたことが報告されています。このため、馬の冠関節固定術においては、プレートと螺子を併用する術式によって、十分に堅固な関節固定と治癒が達成され、良好な予後を示す馬が多いことが示唆されました。
この研究の術式では、一枚の幅の狭いDCP(三孔、四孔、または五孔)と二本の経関節螺子(Trans-articular lag screws: 5.5mm)による冠関節の不動化(Immobilization)、および関節軟骨の除去(Articular cartilage removal)が実施され、海綿骨の移植(Cancellous bone graft)を要した馬はありませんでした。この論文の筆者の他の文献では、三孔DCPと二本の螺子を併用する術式は、三本の螺子のみを用いる術式よりも、周期性負荷(Cyclic loading)に対する金属疲労耐性(Fatigue resistance)が有意に高いことが示唆されています。
この研究では、治癒が達成された馬の割合は、前肢の冠関節固定術では81%(20/25頭)、後肢の冠関節固定術では95%(20/21頭)であったことが示されました。また、騎乗使役された馬を見ても、意図したレベルの運動復帰が達成された馬の割合は、前肢の冠関節固定術では73%(8/11頭)、後肢の冠関節固定術では94%(15/16頭)であったことが報告されています。つまり、前肢よりも起立時の体重負荷や運動時の負重が少ない後肢のほうが、冠関節固定術における予後は一般的に良い傾向が認められました。
この研究では、冠関節固定術が応用された53頭の患馬において、遠位肢ギプス(Distal limb cast)の装着期間は平均14日で、このうち、装着期間が15日未満であった症例は93%(50/53頭)にのぼり、二度目のギプス装着を要した馬は8%(4/53頭)だけであったことが報告されています。他の文献を見ると、螺子のみによる冠関節固定術における遠位肢ギプスの装着期間は、平均27日間(MacLellan et al. Vet Surg. 2001; 30: 454)、平均57日間(Martin et al. JAVMA. 1984; 184: 1136)、平均62日間(Caron et al. Vet Surg. 1990; 19: 196)などとなっています。このため、螺子のみを用いる術式に比べて、プレートと螺子を併用する術式では、より強固な関節固定と早期の骨癒合(Bony union)が期待され、その結果、遠位肢ギプスの装着を短期間に抑えることが出来たと考察されています。
この研究では、それぞれの患馬の適応症(Indication)を見ると、骨関節炎(Osteoarthritis)では治癒成功率は86%(18/21頭)、冠関節亜脱臼(Pastern joint subluxation)では治癒成功率は100%(9/9頭)、軟骨下嚢胞(Subchondral bone cyst)では治癒成功率は100%(6/6頭)、そして、中節骨骨折(Middle phalanx fracture)では治癒成功率は100%(6/6頭)などとなっています。しかし、感染性関節炎(Septic arthritis)を呈した患馬における治癒成功率は50%%(2/4頭)で、他の適応症と比べて予後が悪い傾向が見られました(統計的な有意差は無し)。
この研究では、三孔DCPによる冠関節固定術では治癒成功率は93%(25/27頭)であったのに対して、四孔DCPによる冠関節固定術では治癒成功率は88%(15/17頭)で、この二つの術式の違いによる予後の有意差は見られませんでした。また、両側性(Bilateral)の冠関節固定術では治癒成功率は80%(4/5頭)であったのに比べて、片側性(Unilateral)の冠関節固定術では治癒成功率は88%(36/41)で、両側性と片側性の違いによる有意差も認められませんでした。
この研究では、十頭の患馬において、術後の5~9ヵ月目にインプラントの除去を要し、これらの馬では、インプラント周囲の放射線透過性(Radiolucency around implants)、過剰な骨増殖(Excessive osteoproliferation)、持続性跛行(Persistent lameness)、排膿孔形成(Draining tract formation)などが観察され、また、四頭の患馬において、将来の競技能力や外見的美容への影響を心配する馬主の依頼によって、インプラントの除去が選択されました。
Photo courtesy of Equine Vet J. 2006; 38(6): 538-542.
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