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馬の文献:冠関節固定術(Sod et al. 2007)

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「馬の冠関節固定術の体外力学的比較:スプーン型プレートおよび軸性DCPと遠軸性経関節螺子」
Sod GA, Mitchell CF, Hubert JD, Martin GS, Gill MS. In vitro biomechanical comparison of equine proximal interphalangeal joint arthrodesis techniques: prototype equine spoon plate versus axially positioned dynamic compression plate and two abaxial transarticular cortical screws inserted in lag fashion. Vet Surg. 2007; 36(8): 792-799.

この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、18本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、馬用のスプーン型プレート(Equine spoon plate)、もしくは一枚のダイナミック・コンプレッション・プレート(Dynamic compression plate: DCP)と二本の5.5mm経関節皮質骨螺子(Transarticular cortical screws: TLS)の併用による冠関節固定術が行われ、この二つの術式の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。

結果としては、圧迫性および捻転性の生体力学的試験(Compressive/Torsional biomechanical testing)の両方において、スプーン型プレートのほうがDCPと螺子を併用した術式に比べて、有意に高い降伏荷重(Yield load)、硬度(Stiffness)、破壊荷重(Failure load)を有することが示されました。このため、スプーン型プレートを用いた冠関節固定術では、DCPと螺子を併用する手法に比べて、より堅固な関節の不動化(Immobilization)と、それに伴う早期の骨癒合(Bony union)が期待されることが示唆されました。

この研究で使用されたスプーン型プレートは、馬の冠関節固定術のために開発されたもので、冠関節の背側面におけるインプラントの断面積は254-mm2(DCPでは68-mm2)、慣性モーメント面積(Area moment of inertia)は0.072-cm4(DCPでは0.007-cm4)というように、従来法であるDCPと螺子を併用した術式よりも、顕著に高い物理的強度を達成できると考えられました。また、スプーン型プレートの設置は、手技的にDCPと螺子を併用した術式よりも簡単で、また、値段も$225と比較的に安価であることから、今後の臨床症例に対する治療効果の検証が期待されると推測されています。

この研究では、馬の麻酔覚醒(Anesthesia recovery)における術部への負荷を再現するため、単周期の圧迫性力学的試験(Single cycle compressive biomechanical testing)が選択され、スプーン型プレートでは平均124キロニュートン、DCPと螺子の併用では平均29キロニュートンの負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、体重が450~550kgの馬の麻酔覚醒時には、各前肢に21キロニュートンの荷重が生じることが知られています(Rybicki et al. J Biomech. 1977: 701)。つまり、この研究で用いられたいずれの術式においても、麻酔覚醒の際に生じる負荷に対して、計算上は十分に耐えられることが示唆されました。

この研究では、馬が馬房内で歩き回るときの術部への負荷を再現するため、周期性の疲労試験(Cyclic fatigue testing)が選択され、スプーン型プレートでは平均62万回、DCPと螺子の併用では平均10万回の負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、馬が馬房内で歩き回る歩数は、一時間当たり190歩であることが知られており(McDuffee et al. AJVR. 2000: 234)、この結果、スプーン型プレートでは四ヵ月半にわたる周期性負荷に耐えうるのに対して、DCPと螺子の併用では一ヶ月未満の周期性負荷にしか耐えられないことが示されました。

この研究に用いられた二つの術式では、スプーン型プレートは八本の螺子(基節骨に五本、中節骨に三本)で固定されたのに対して、DCPと螺子の併用では、三本のプレート固定用の螺子と(基節骨に二本、中節骨に一本)、二本の経関節螺子しか用いられておらず、この螺子の数の差が物理的強度に影響した可能性は否定できません。また、スプーン型プレートの臨床応用に際しては、その設置に際して数多くの螺子が使用されることで、術後に冠関節背側面に過剰な仮骨増殖(Excessive callus formation)が起こることも考えられます。

Photo courtesy of Vet Surg. 2007; 36(8): 792-799.

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