馬の病気:棘下滑液嚢炎
馬の運動器病 - 2013年09月04日 (水)

棘下滑液嚢炎(Infraspinatus bursitis)について。
棘下滑液嚢(Infraspinatus bursa)は、棘下筋腱(Infraspinatus muscle tendon)と上腕骨大結節の尾側隆起(Caudal eminence of humeral greater tubercle)のあいだに位置しており、肩関節の外側支持機能(Lateral support function of shoulder joint)に寄与している棘下筋腱が、近位上腕骨表面を滑り運動するのを補助する役割を担っています。
棘下滑液嚢炎は、蹴傷や転倒などによる肩関節の外側面(Lateral aspect of shoulder joint)への外傷に起因することが一般的ですが、横臥位時に前肢が何かに引っ掛かり、起立の際に強く暴れる事で、前肢の過剰内転(Excessive adduction)を生じることが病因となる可能性も示唆されています。また、肩部への穿孔性外傷(Penetrating wound)による細菌感染(Bacterial infection)によって、感染性棘下滑液嚢炎(Septic infraspinatus bursitis)を起こす症例も報告されています。
棘下滑液嚢炎の症状としては、中程度跛行(Moderate lameness)と肩関節の外側面における腫脹(Swelling)、熱感(Heat)、圧痛(Pain on palpation)などを呈し、起立時には前肢を外転位に保持する仕草(Held forelimn in an abducted position)が観察される場合もあります。肩部の触診では、特徴的な臨床症状(Characteristic clinical signs)である、前肢の内転操作による疼痛反応(Pain response on forelimb adduction)が見られます。
棘下滑液嚢炎の診断は、視診と触診に併せて、肩関節外側部の超音波検査(Ultrasonography)によって下され、滑液貯留(Synovial fluid accumulation)による棘下滑液嚢の膨満(Distension of infraspinatus bursa)、滑膜の過剰増生および肥厚化(Thickened and excessive proliferation of synovial membrane)、上腕骨大結節の尾側隆起面の不規則性(Irregularity on the cranial eminence surface)などが見られます。棘下滑液嚢の膨満は、一般的に棘下筋腱よりも尾側部に顕著に観察され、棘下筋腱炎(Infraspinatus tendinitis)を併発した症例では、低エコー性病変(Hypoechoic lesion)や腱繊維走行の破損(Disruption of tendon fiber alignment)が認められる場合もあります。感染性棘下滑液嚢炎が疑われる場合には、滑液嚢の滑液検査(Synovial fluid analysis)によって、白血球数の増加、好中球含有率の上昇、蛋白質濃度の増加。などを調べる事が重要です。
棘下滑液嚢炎の治療では、非感染性(Non-infectious)の病態においては、馬房休養(Stall rest)と非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の全身投与に併行して、棘下滑液嚢内へのコルチコステロイドとヒアルロン酸の注射が行われます。感染性の棘下滑液嚢炎が確認された症例では、超音波誘導(Ultrasound-guided)を介して棘下滑液嚢の針穿刺(Needle paracentesis)を行って、滑液嚢の洗浄(Bursal lavage)と抗生物質注入(Anti-microbial infusion)が施されます。また、難治性の感染性滑液嚢炎が慢性に経過した場合には、棘下滑液嚢の内視鏡手術(Arthroscopy)を介して、大量の生食による滑液嚢洗浄、病巣清掃(Debridement)、滑膜切除術(Synovectomy)などを要する可能性が示唆されています。
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