馬の文献:冠関節固定術(Sod et al. 2010)
文献 - 2023年02月03日 (金)

「馬の冠関節固定術の生体力学的比較:DCPと二本の経関節皮質骨螺子または三本の経関節皮質骨螺子」
Sod GA, Riggs LM, Mitchell CF, Hubert JD, Martin GS. An in vitro biomechanical comparison of equine proximal interphalangeal joint arthrodesis techniques: an axial positioned dynamic compression plate and two abaxial transarticular cortical screws inserted in lag fashion versus three parallel transarticular cortical screws inserted in lag fashion. Vet Surg. 2010; 39(1): 83-90.
この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、30本の屍体前肢(Cadaveric forelimb)を用いて、一枚のダイナミック・コンプレッション・プレート(Dynamic compression plate: DCP)と二本の5.5mm経関節皮質骨螺子(Transarticular cortical screws)の併用、もしくは三本の5.5mm経関節皮質骨螺子による冠関節固定術が行われ、この二つの術式の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。
結果としては、圧迫性および捻転性の生体力学的試験(Compressive/Torsional biomechanical testing)の両方において、DCPと螺子を併用する術式のほうが、螺子のみを用いる術式に比べて、有意に高い降伏荷重(Yield load)、降伏硬度(Yield stiffness)、破壊荷重(Failure load)を有することが示されました。このため、DCPと二本の螺子を併用させる冠関節固定術では、三本の螺子のみを用いる術式に比べて、より堅固な関節の不動化(Immobilization)と、それに伴う早期の骨癒合(Bony fusion)が期待されることが示唆されました。
この研究では、馬の麻酔覚醒(Anesthesia recovery)における術部への負荷を再現するため、単周期の圧迫性力学的試験(Single cycle compressive biomechanical testing)が実施され、DCPと二本の螺子を併用する術式では平均29キロニュートン、三本の螺子のみを用いる術式では平均23キロニュートンの負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、体重が450~550kgの馬の麻酔覚醒時には、各前肢に21キロニュートンの荷重が生じることが知られており(Rybicki et al. J Biomech. 1977: 701)、この研究で用いられたいずれの術式においても、麻酔覚醒の際に生じる負荷に対して、計算上は十分に耐えられることが示唆されました。
この研究では、馬が馬房内で歩き回るときの術部への負荷を再現するため、周期性の疲労試験(Cyclic fatigue testing)が実施され、DCPと二本の螺子を併用する術式では平均9万6千回、三本の螺子のみを用いる術式では平均7万5千回の負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、馬が馬房内で歩き回る歩数は、一時間当たり190歩であることが知られており(McDuffee et al. AJVR. 2000: 234)、この結果、DCPと二本の螺子を併用する術式では三週間前後、三本の螺子のみを用いる術式では二週間前後の周期性負荷に耐えられる、というデータが示されました。
この研究では、馬が肢をねじったり、回転運動をするときの術部への負荷を再現するため、単周期の捻転性力学的試験(Single cycle torsional biomechanical testing)が選択され、DCPと二本の螺子を併用する術式では平均107-Nm/rad、三本の螺子のみを用いる術式では平均77-Nm/radの負荷に耐えうるというデータが示されました。一般的に、成馬の第三中手骨(Third metacarpal bone)は、560-Nm/radの負荷に耐えうることが知られており(Hansonet al. AJVR. 1995; 56: 233)、この研究で用いられた術式ではこの二割弱の強度しかないことが示されました。このため、上述の単周期の圧迫性試験で示唆されている強度に関わりなく、馬の冠関節固定術の麻酔覚醒時には、ギプスなどの外固定法(External fixation)を用いて、インプラント損傷の予防に努めることが重要である、という考察がなされています。
Photo courtesy of Vet Surg. 2010; 39(1): 83-90.
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