馬の文献:冠関節固定術(Carmalt et al. 2010)
文献 - 2023年02月04日 (土)

「馬の冠関節固定術:二本または三本の皮質骨螺子における周期性の生体力学的比較」
Carmalt JL, Delaney L, Wilson DG. Arthrodesis of the proximal interphalangeal joint in the horse: a cyclic biomechanical comparison of two and three parallel cortical screws inserted in lag fashion. Vet Surg. 2010; 39(1): 91-94.
この研究論文では、馬の冠関節固定術(Pastern arthrodesis)における、より強度の高い術式を評価するため、10本の屍体肢(Cadaveric limb)を用いて、二本または三本の5.5mm経関節皮質骨螺子(Transarticular cortical screws)による冠関節固定術が行われ、この二つの術式の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。
結果としては、周期性の三点屈曲性の生体力学的試験(Cyclic three-point bending biomechanical testing)において、破損までの周期数(Number of cycles to failure)、破損時の荷重(Failure force)、および破損時の変位(Displacement at failure)などの測定値には、二つの術式のあいだに有意差は認められませんでした。このため、二本の5.5mm皮質骨螺子を使用する術式のほうが、手技的にも簡単で、かつ手術時間の短縮につながり、冠関節背側部における過剰骨増生(Excessive bone formation)の度合いも低くなると考えられました。
この研究での力学的試験の終了点(=冠関節固定部の破損時)では、いずれの術式においても、螺子そのものではなく、遠位基節骨(Distal region of proximal phalanx)の破損が生じていました。このため、馬の冠関節固定術の強度は、螺子が挿入されている部分の骨の強さによって決定され、螺子自体の強度は直接的な因子ではないため、螺子の数を二本から三本に増やしても物理的強度の向上にはつながらなかった、という考察がなされています。
馬の冠関節固定術に関する他の文献を見ると、プレートと螺子を併用した術式の体外実験(In vitro experiment)では、プレートの変形や破損(Plate bending/breakage)が生じたにも関わらず(Watt et al. Vet Surg. 2002; 31: 85)、実際の臨床症例においては、螺子の破損(Screw breakage)が最も一般的な様式であることが報告されています(Knox and Watkins. EVJ. 2006; 38: 538)。これは、体外実験では、繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)の遠位組織である種子骨遠位靭帯(Distal sesamoidean ligament)を介して、冠関節へと掛かるテンションバンド機能が完全には作用しないことから、生きた馬の肢に起こっている物理的負荷の状況を正確には再現していなかったためと推測されています。このため、この研究の結果に関しても、二本および三本の螺子を用いた術式の違いを、実際の症例に応用してその治癒経過や予後を観察することで、より慎重に評価する必要があると考察されています。
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