馬の文献:冠関節固定術(Watts et al. 2010)
文献 - 2023年02月05日 (日)

「馬における螺子とレーザー促進による冠関節固定術」
Watts AE, Fortier LA, Nixon AJ, Ducharme NG. A technique for laser-facilitated equine pastern arthrodesis using parallel screws inserted in lag fashion. Vet Surg. 2010; 39(2): 244-253.
この研究論文では、馬の冠関節の骨関節炎(Pastern osteoarthritis)に対して、より治療効果の高い冠関節固定術(Pastern arthrodesis)の術式を評価するため、ダイオードレーザーを用いての最小侵襲手術(Minimally invasive surgery)を介して冠関節固定術が応用された、六頭の患馬の医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective)が行われました。
この研究で試みられた最小侵襲手術では、従来法である冠関節の側副靭帯(Collateral ligament)を切断し、冠関節を一時的に脱臼(Temporary pastern joint luxation)させて関節軟骨(Articular cartilage)を除去する方法ではなく、関節腔へと穿刺した針を介しての、ダイオードレーザー焼灼(Diode laser ablation)によって関節軟骨を変性させる手法が用いられました。そして、レーザー焼灼の後、穿刺切開創(Stab incision)を介しての三本の経関節螺子(Trans-articular lag screws)を用いた術式によって、冠関節の不動化(Immobilization)が行われました。
結果としては、術後の六ヶ月までに、六頭の患馬のうち五頭(83%)が跛行の治癒と、意図したレベルへの使役復帰(Returned to intended use)を果たし、残りの一頭も軽度の持続性跛行(Mild persistent lameness)を呈したものの、騎乗使役へ復帰できたことが報告されています(運動復帰率:100%)。また、従来法では術後の八ヶ月~九ヶ月を要する運動復帰の時期が、この研究では殆どの患馬(5/6頭)において、術後の六ヶ月以内に達成されたことが報告されています。このため、馬の冠関節の骨関節炎の治療に際しては、ダイオードレーザーを用いての最小侵襲性の冠関節固定術によって、良好な治癒と予後が期待され、早期に運動への復帰を果たす馬が多いことが示唆されました。
この研究では、六頭の患馬のうち四頭において、手術の翌日には跛行が完全に消失しており(従来法では術後二週間程度で跛行が消失)、このため、ギプスではなくバンデージのみを用いての術後管理が可能となりました。この理由としては、レーザーによって関節軟骨を焼灼する際に、熱せられた滑膜液(Synovial fluid)を介して滑膜内の神経末端(Nerve endings in synovial membrane)も一緒に損傷されて、速やかな疼痛緩和(Pain release)を呈したことや、レーザー照射時の熱で関節包が収縮(Joint capsule shrinkage)して、関節不動化を支持する作用につながったこと、などの要因が挙げられています。しかし、この際に発生する熱が高すぎると、軟骨下骨(Subchondral bone)の壊死を引き起こし、基節骨(Proximal phalanx)と中節骨(Middle phalanx)の癒合を阻害する可能性もあるため、レーザー使用時の適切な冷却度合いについては、さらなる検討を要すると考えられました。
この研究では、従来法のような大きな皮膚切開創を設けない最小侵襲性の術式が応用されたため、手術時間(Surgery time)、遠位ギプス(Distal limb cast)またはバンデージの装着期間、入院(Hospitalization)の期間などの短縮につながり(平均入院期間は13日間)、治療費の総額は従来法の半分から三分の一に抑えられたことが報告されています。これは、側副靭帯の切断を要しない手法であったため、術後に冠関節の安定性が維持されやすく、術部の良好な治癒につながったり、長期間にわたるギプス装着に起因する褥瘡(Pressure sore)を起こしにくかったこと、および、切開創のサイズが小さく、術創感染などの術後合併症(Post-operative complication)の危険が少なかったこと、などが奏功したためと考察されています。
この研究では、六頭の患馬のうち一頭において、レーザー照射に起因すると推測される皮膚壊死(Skin necrosis)が認められ、その後の術創治癒の遅延(Delayed incisional healing)と予後の悪化につながったことが示されています。これは、術中におけるレーザー使用部位の冷却が不十分であったためと考察されており、冷却用の生食を十分に冷やし、静脈注射用のドリップではなく、シリンジを使用して術部に滴下することで、このようなレーザー焼灼が原因で起こる皮膚壊死を予防できると考えられました。
馬の冠関節固定術においては、関節軟骨を除去する必要性について論議があり、他の文献では、ロッキング・コンプレッション・プレート(Locking compression plate) と螺子を併用する術式(Richardson et al. 2008 ACVS symposium)、または、螺子のみを用いる術式(Amend et al. 2009 VOS meeting)によって、関節軟骨を除去しない冠関節固定術によっても、良好な骨癒合(Bony fusion)が達成できることが報告されています。この研究では、レーザー焼灼によってどの程度の関節軟骨が除去されたのかは特定されていませんが、レーザー使用による手術直後からの疼痛緩和や、術創のサイズが小さく抑えられることなど、最小侵襲手術の他の利点を考慮しても、上述の文献にあるような内固定法に、レーザー照射を併用することで治療効果の向上が期待される、という考察がなされています。
Photo courtesy of Vet Surg. 2010; 39(2): 244-253.
関連記事:
馬の冠関節固定術