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馬の文献:球節固定術(Bramlage. 1981)

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「馬の球節固定術における外科的手技の初期報告」
Bramlage LR. An initial report on a surgical technique for arthrodesis of the metacarpophalangeal joint in the horse. Proceeding of AAEP. 1981; 26: 257-261.

このプロシーディングでは、馬の遠位肢重篤損傷(Severe distal limb injury)に対する救援療法(Salvage therapy)として応用される、球節固定術(Fetlock lameness)の術式が紹介されています。

馬における球節固定術の適応症(Indications)としては、球節の安定性を担う軟部組織または骨組織の損失が挙げられ、管骨、種子骨、基節骨などの重篤な骨折(Severe fracture of cannon bone, proximal sesamoid bone, proximal phalanx)、および、繋靭帯合同装置の破損(Failure of suspensory apparatus)、側副靭帯の断裂(Rupture of fetlock collateral ligament)を伴う球節の脱臼および亜脱臼(Fetlock luxation/subluxation)のなどが含まれます。

この報告の術式では、まず、罹患肢を下にした横臥位(Lateral recumbency with injured limb down)での全身麻酔(General anesthesia)の後、近位管部(Proximal meta-carpus/tarsus)から蹄冠(Coronary band)まで達する曲直線状切開創(Curvilinear incision)が設けられ、関節包(Joint capsule)の切開を介しての関節腔(Articular cavity)へのアプローチが行われます。そして、球節を10°の角度で伸展した状態で、管骨および基節骨の背側面に合致するようにプレートを曲げ、四本の螺子によってプレート遠位部を基節骨に固定します。プレートの輪郭付け(Plate contouring)および螺子挿入は、必ず下記のような関節構造の外科的破損(Surgical disruption of joint architecture)を施す前に完了することが重要です。

その後、一時的にプレートを取り外し、内側顆状突起の骨切術(Medial condylar osteotomy)によって球節を部分的離断(Fetlock partial disarticulation)させた後、関節軟骨(Articular cartilage)を掻爬(Curretage)してから、関節面から管骨および基節骨の骨髄腔(Medullar cavity)へとドリル穿孔を行って、骨髄から球節部への骨芽細胞(Osteoblasts)および成長因子(Grawth factors)の供給を促します。プレート固定とテンションワイヤーを併用する場合には、管骨および基節骨に内外側方向に空けたドリル孔を介して、球節の掌側&底側面(Palmar/Plantar aspect of fetlock)へとワイヤーを八の字に通過させます。

そして、球節離断を元通りに整復した後、プレートを再び基節骨へと螺子固定し、ワイヤーを締めてから、経関節螺子(Trans-articular lag screw)の挿入、および、管骨から種子骨への螺子挿入を行い、プレート近位部を管骨に螺子固定します。その後、軟部組織と皮膚を縫合閉鎖して、プレートに沿うようにしてペンローズドレインを設置して、術部からの排液を促します。麻酔覚醒(Anesthesia recovery)に際しては、成馬の症例では遠位肢ギプス(Distal limb cast)を要しますが、子馬の症例では圧迫バンテージのみが装着されます。

馬の球節固定術では、従来のプレート固定の原則と異なり、圧迫面(Compression surface)に当たる球節背側面にプレートを設置するという観点から、プレートへの過剰な負荷を抑えるため、健常馬における球節角度よりも少ない10°の角度で関節固定が実施されます。このため、術後には罹患肢のほうが対側肢よりも長くなり、患馬はこの左右不均等な状態での歩行に適応する期間を要するため、球節固定術を応用するという決断は、対側肢の異常が発生するまえに下されるべきである、という警鐘が鳴らされています。また、対側肢の蹄にパッドを当てた蹄鉄を付けることで、罹患肢を少しでも対側肢の長さに近づけて、左右不均等な肢への適用を助ける方針も有用です。

このプロシーディングでは、球節固定術が応用された患馬の生存率は54%(7/13頭)であったことが報告されていますが、この手術の正確な治療効果を評価するには、より多くの症例数が必要であると考えられました。また、馬の球節固定術に併発する術後合併症(Post-operative complication)としては、対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis; Weight-bearing laminitis)、末端肢の血行障害(Avascularity of digit)、術創から遠い箇所での細菌感染(Bacterial infection)に起因する骨髄炎(Osteomyelitis)、プレートより近位側における第三中手骨骨折(Third metacarpal bone fracture)などが見られましたが、プレートやワイヤーなどのインプラントの損失を起こした症例は、一頭も無かったことが報告されています。

Photo courtesy of Proceeding of AAEP. 1981; 26: 257.

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