馬の文献:球節固定術(Richardson et al. 1987)
文献 - 2023年02月13日 (月)

「外骨格固定装置および骨移植の併用による馬の球節固定術」
Richardson DW, Nunamaker DM, Sigafoos RD. Use of an external skeletal fixation device and bone graft for arthrodesis of the metacarpophalangeal joint in horses. J Am Vet Med Assoc. 1987; 191(3): 316-321.
この研究論文では、馬の遠位肢の重篤な損傷(Severe distal limb injury)に対する救援療法(Salvage therapy)として応用される、球節固定術(Fetlock arthrodesis)の有用な術式を検討するため、九頭の馬に対して外骨格固定装置(External skeletal fixation device)および骨移植(Bone graft)の併用による球節固定術が試みられました。
この研究の術式では、罹患肢を上にした横臥位(Lateral recumbency with injured limb up)での全身麻酔(General anesthesia)の後、内外側の脚部繋靭帯(Medial/Lateral suspensory ligament branches)を切断してから、三本の金属製ピン(直径9.6mm)が第三中手骨の骨幹部(Diaphyseal region of third metacarpal bone)に挿入されました。その後、総指伸筋腱(Common digital extensor tendon)および関節包(Joint capsule)を切開することで関節腔(Articular space)へとアプローチし、背側からのドリル穿孔によって遠位管骨および近位基節骨(Distal portion of third metacarpal bone and proximal portion of proximal phalanx)における関節軟骨(Articular cartilage)および軟骨下骨(Subchondral bone)が除去され、寛結節(Tuber coxae)から採取した150mLの海綿骨の移植(Cancellous bone graft)が行われました。そして、管骨に挿入されたピンの両端を、金属製の外枠に固定することで、外骨格固定装置が設置されました。
結果としては、九頭のうち四頭は、“良好な”治療成績(Excellent results)を示し、手術から44~52日目に外骨格固定装置が外された後、一週間ほどで快適に患肢に負重(Comfortable weight-bearing)できるようになり、管骨と基節骨の完全な骨癒合(Complete bony fusion)が達成されたことが確認されました。一方、他の馬のうち二頭は、“まずまず”の治療成績(Fair results)を示し、外骨格固定装置を取り外せるほどまで回復したものの、管骨と基節骨は不完全な癒合しか起こしておらず、患肢への十分な体重負荷は達成できませんでした。また、残りの馬のうち二頭は、管骨と基節骨の癒合が起きず、関節固定の“失敗”(Failed arthrodesis)となり、最後の一頭は、手術から二日後に、最も近位側のピンの箇所での管骨骨折(Cannon bone fracture ay the most proximal pin)を発症して安楽死(Euthanasia)となりました。この結果、外骨格固定装置および骨移植の併用による球節固定術では、実質の治療成功率は44%(4/9頭)であったことが報告されています。このため、馬の球節固定術では、プレート固定による手法がまだまだ標準的術式(Standard method)であると考えられるものの、外固定+骨移植による手法も“妥当な選択肢”(Reasonable therapeutic option)と見なされる、という考察がなされています。
一般的に、馬における外骨格固定装置は、基節骨または中節骨の重度骨折(Severe fracture of proximal/middle phalanx)の外固定法(External fixation)の目的で使用されており、この研究では、さらに球節固定法の目的でも応用可能であることが示されました。外骨格固定装置による球節固定術では、プレート整復術による球節固定術に比べて、損傷部への外科的侵襲が最小限(Minimal surgical trauma)で、術後には直ちに患肢への体重負荷ができるため対側肢の負重性蹄葉炎(Support limb laminitis)を予防でき、また、損傷部位の軟部組織治療(Treatment of soft-tissue lesions at the site of injury)が可能である、などの利点があります。一方、管骨に設置されたピンの緩み(Pin loosening)や、ピン孔感染(Pin-track infection)に起因する周回壊死(Ring necrosis)などの術後合併症(Post-operative complication)を認められた馬は、外固定具が取り外された後には、すべて良好な治癒を示したことが報告されています。
この研究では、関節固定の“失敗”となった二頭は、いずれもピンを外枠に固定する前に、関節部への骨移植が行われており、この結果、関節軟骨が切除されていない箇所の関節腔に海綿骨の小片が入り込むことで、管骨と基節骨の癒合が妨げられたと推測されています。このため、外固定法を用いての球節固定術では、まず、外骨格固定装置とピンによって球節を不動化(Fetlock immobilization)し、その後に関節内に海綿骨を充填する指針が推奨されています。
この研究では、九頭の馬のうち八頭は、健常な実験馬であり、実際の臨床症例に見られるような軟部組織損傷や血行障害を呈していなかったため、たとえ、繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)による球節の掌側支持機能(Palmar support function)が取り除かれたこと(=脚部繋靭帯の切断)を考慮しても、関節固定術による骨癒合は起こりやすかったと推測されます。このため、この研究における治療成績は過大評価(Over-estimation)されている可能性が否定できず、さらに多数の臨床症例への応用によって、より正確な治療効果の評価に努める必要があると考えられました。
Photo courtesy of JAVMA. 1987; 191: 316.
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