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馬の文献:球節固定術(Crawley et al. 1988)

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「クロワード変法による健常馬の球節固定術」
Crawley GR, Grant BD, White KK, Barbee DD, Gallina AM, Ratzlaff MH. A modified Cloward's technique for arthrodesis of the normal metacarpophalangeal joint in the horse. Vet Surg. 1988; 17(3): 117-127.

この研究論文では、馬の遠位肢の重篤な損傷(Severe distal limb injury)に対する救援療法(Salvage therapy)として応用される、球節固定術(Fetlock arthrodesis)の有用な術式を検討するため、八頭の馬に対してクロワード変法(Modified Cloward's technique)による球節固定術が試みられました。クロワード変法とは、関節内に金属製バスケットを埋め込み関節可動域(Range of motion)を制限することで、その関節の骨癒合(Articular bony fusion)を促す治療法で、馬の頚椎変形症(Cervical vertebral malformation)における腹側安定化(Ventral stabilization)にも応用されています。

この研究の術式では、罹患肢を上にした横臥位(Lateral recumbency with injured limb up)での全身麻酔(General anesthesia)の後、球節を160°の伸展状態で固定してから、球節背側部の皮膚をI字型に切開し、関節包(Joint capsule)を近位背側基節骨(Proximo-dorsal aspect of proximal phalanx)から剥離することで、関節腔(Articular space)へとアプローチされました。その後、関節軟骨(Articular cartilage)および軟骨下骨(Subchondral bone)を除去しながら背側からドリル穿孔して、関節間に金属製バスケットを埋め込み、その中に寛結節(Tuber coxae)から採取した海綿骨の移植(Cancellous bone graft)が行われました。関節包&皮下組織&皮膚の閉鎖後、遠位肢ギプス(Distal limb cast)を装着しての麻酔覚醒(Anesthesia recovery)が行われ、術後の八週間にわたってギプス装着が行われました。

結果としては、八頭のうち七頭は、完全な骨性癒合(Complete osseous fusion)が見られ、球節の可動域消失が達成されました。また、力学的歩様解析(Kinetic gait analysis)の結果では、常歩時には患肢と正常肢とのあいだに体重負荷の有意差は認められず、速歩時においても患肢は正常肢の90%に及ぶ体重負荷を示したことが報告されています。このため、馬の球節に対しては、クロワード変法によって十分な関節癒合が期待され、良好な体重負荷機能を回復できる馬が多いことが示唆されました。

しかし、クロワード変法は堅固な内固定(Rigid internal fixation)を達成する手法ではないため、この術式を応用するためには、管骨、基節骨、関節支持組織の統合性(Integrity)、特に側副靭帯の連続性(Collateral ligament continuity)が維持されている必要があることから、骨折や脱臼&亜脱臼(Fetlock luxation/subluxation)などに対しての施術は困難で、その適応症は、重篤な球節の変性関節疾患(Severe degenerative joint disease)などに限られることが示唆されています。また、この研究の患馬においては、繋靭帯(Suspensory ligament)の切断&切除は行われていないため、繋靭帯合同装置の破損(Failure of suspensory apparatus)に対してクロワード変法が応用可能かどうかを結論付けるのは難しいと考察されています。

この研究では、術後のレントゲン検査において、種子骨の骨減少症(Osteopenia)、管骨顆状突起(Metacarpal condyle)の破片骨折、基節骨の縦軸性骨折(Longitudinal fracture)などが確認されましたが、いずれの症例も術後の六ヶ月目までには、球節の骨性癒合が完了したことが報告されています。また、剖検(Necropsy)においては、バスケットの中身および周囲は、完全に皮質骨で充填(Cortical bone filling)され、感染を起こした馬は一頭もいなかったことが報告されています。

この研究では、球節の角度を160度という、健常状態の145~150度よりも大きい角度(=より真っ直ぐに近い角度)で固定化することで、管骨と基節骨の早期癒合を促す術式が選択されました。このため、術後には罹患肢のほうが対側肢(Contralateral limb)よりも長くなりましたが、いずれの患馬も、この左右不均等の前肢を使っての生活によく順応したことが報告されています。

Photo courtesy of Vet Surg. 1988; 17: 117.

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