馬の文献:球節固定術(Whitehair et al. 1992)
文献 - 2023年02月15日 (水)

「先天性の屈曲性肢変形症の治療のための球節固定術」
Whitehair KJ, Adams SB, Toombs JP, Parker JE, Prostredny JM, Whitehair JG, Aiken SW. Arthrodesis for congenital flexural deformity of the metacarpophalangeal and metatarsophalangeal joints. Vet Surg. 1992; 21(3): 228-233.
この症例論文では、先天性屈曲性肢変形症(Congenital flexural deformity)の治療のために、球節固定術(Fetlock arthrodesis)が応用された、ミニチュアホースの一症例が報告されています。
患馬は、五日齢のアメリカン・ミニチュアホースのメスの子馬(Filly)で、両前肢の球節(Fetlock joint: Metacarpo-phalangeal joint)における重篤な先天性屈曲性肢変形症(球節の角度は掌側へ230度)の病歴で来院しました。治療では、浅屈腱および深屈腱(Superficial/Deep digital flexor tendons)の切断術の後、背側からのドリル穿孔によって関節軟骨の除去(Articular cartilage removal)が行われ、遠位管骨および近位基節骨における背側面の骨隆起を楔型骨切術(Wedge ostectomy)で切除してから、五孔&六孔のダイナミック・コンプレッション・プレートを用いての球節固定術が施されました。
術後には、三週間にわたって遠位肢ギプス(Distal limb cast)による外固定(External fixation)が併用され、その後は副木バンテージ(Splint bandage)が装着されました。術後の一ヶ月目および二ヶ月目には、術創感染(Incisional infection)が認められましたが、全身性抗生物質療法(Systemic anti-microbial treatment)および患部の洗浄(Lavage)によって治癒しました。術後の六ヶ月目までには、レントゲン検査によって両球節の完全な骨性癒合(Complete bony fusion)が確認され、患馬は両前肢への完全な体重負荷を示し、極めて良好な予後が達成されたことが報告されています。

一般的に、馬の屈曲性肢変形症に対しては、支持靭帯(Check ligaments)および浅&深屈腱の切断術が応用されますが、この症例では、総指伸筋腱(Common digital extensor tendon)が先天的に欠如していたため、より積極的な矯正法(Aggressive corrective therapy)として球節の外科的固定術を要しました。手術では、繋靭帯(Suspensory ligament)は切断されませんでしたが、背側部での楔型骨切術によって繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)から掛かる掌側方向への過緊張(Excessive tension toward palmar direction)を緩和する手法によって、球節掌側面へのテンション・ワイヤーを要することなく、プレート整復のみでの球節固定術が達成されました。
この症例では、球節固定術のために深屈腱が切断された結果、術後には蹄関節(Coffin joint: Distal inter-phalangeal joint)の掌側支持機能(Palmar support function)が失われて、蹄関節の亜脱臼(Subluxation)が見られましたが、蹄踵挙上(Heel elevation)を施した蹄鉄の装着によって、この亜脱臼は整復されました。このため、屈曲性肢変形症の治療に際しては、出来るだけ深屈腱を切断するのは避け、蹄関節亜脱臼の術後合併症(Post-operative complication)を予防するべきであることが推奨されています。
Photo courtesy of Vet Surg. 1992; 21: 228.
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