馬の文献:球節固定術(Sod and Martin. 2004)
文献 - 2023年02月16日 (木)

「馬の球節固定術のための髄内ピンプレートおよびダイナミックコンプレッションプレートの生体力学的比較」
Sod GA, Martin GS. An in vitro biomechanical comparison of a prototype intramedullary pin-plate with a dynamic compression plate for equine metacarpophalangeal arthrodesis. Vet Surg. 2004; 33(1): 83-91.
この研究論文では、馬の遠位肢重篤損傷(Severe distal limb injury)に対する救援療法(Salvage therapy)として応用される、球節固定術(Fetlock lameness)に有用な術式を評価するため、42本の屍体前肢(Cadaveric forelimbs)の球節(Fetlock joint: Metacarpo-phalangeal joint)を、試験型(Prototype)の髄内ピンプレート(Intramedullary pin-plate)、およびダイナミック・コンプレッション・プレート(Dynamic compression plate: DCP)を用いて関節固定し、軸性圧迫試験(Axial compression test)および捻転負荷試験(Torsional loading test)によって、両固定法の物理的強度(Physical strength)の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。
結果としては、降伏負荷(Yield load)、降伏硬度(Yield stiffness)、破損負荷(Failure load)などの測定値を見ると、DCP固定術に比べて髄内ピンプレート固定術のほうが、有意に高い物理的強度を示しました。また、反復負荷試験(Cyclic loading test)では、DCP固定術は平均七万回の負荷によって破損したのに対して、髄内ピンプレート固定術は機械の限界である八十万回の負荷によっても破損しなかったことが報告されています。このため、馬の球節固定術においては、髄内ピンプレートを用いた術式によって、より強度の高い関節固定術が実施できることが示唆されました。
一般的に、馬の球節固定術では、本来のプレート固定の原則に反して、圧迫面(Compression surface)である管骨&基節骨背側面(Dorsal surface of third meta-carpal/tasal bone and proximal phalanx)にプレートを設置しなくてはなりませんが、この研究で試験された髄内ピンプレートでは、緊張面(Tension surface)に当たる基節骨掌面(Palmar surface of proximal surface)にプレート設置できます。また、髄内ピンは管骨の骨髄内にしか通されていないため、術後に球節角度を正常に近い角度に保てるという特徴があります。しかし、実物の馬の前肢に対してこの髄内ピンプレートを使うためには、側副靭帯(Collateral ligament)、輪状靭帯(Annular ligament)、遠位種子骨靭帯(Distal sesamoidean ligament)などの、球節支持機能をになっている多くの結合組織を切除しなくてはならず、実際の症例に対しては、施術が難しい術式であると考えられます。また、万が一、術創の細菌感染(Bacterial infection)が起こった場合にも、DCPのように簡単にインプラントを除去できないという欠点もあります。
この論文では、髄内ピンプレート固定術の研究を行う重要性(Significance)として、従来法であるDCP固定術においては、44%の臨床症例が安楽死(Euthanasia)となったという事例が引用されています(Bramlage. Vet Surg. 1985;14:49)。しかし、これらの非生存馬のほとんどは、インプラント破損(Implant failure)が原因で廃用処置になったわけではないので、敢えてDCP固定術よりも強度の高い術式を検討することの必要性についても、疑問符がつくと言えるかもしれません。
Photo courtesy of Vet Surg. 2004; 33: 83.
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