馬の文献:球節固定術(Carpenter et al. 2008)
文献 - 2023年02月17日 (金)

「六頭のサラブレッド競走馬におけるロッキング・コンプレッション・プレートを用いての球節固定術の臨床成績」
Carpenter RS, Galuppo LD, Simpson EL, Dowd JP. Clinical evaluation of the locking compression plate for fetlock arthrodesis in six thoroughbred racehorses. Vet Surg. 2008; 37(3): 263-268.
この症例論文では、馬の遠位肢重篤損傷(Severe distal limb injury)に対する救援療法(Salvage therapy)として応用される、球節固定術(Fetlock lameness)に有用な術式を検討するため、2004~2006年にかけて、ロッキング・コンプレッション・プレート(Locking compression plate: LCP)を用いての球節固定術が応用された六頭のサラブレッド競走馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、六頭の患馬のうち、四頭は球節の完全骨癒合(Complete bony fusion)が達成され、繁殖馬として飼養されました(治療成功率:67%)。四頭の生存馬のうち、一頭は種牡馬(Stallion)、残りの三頭は繁殖牝馬(Breeding mare)で、いずれも良好な繁殖成績を示したことが報告されています。このため、LCPを用いての球節固定術では、十分な関節癒合と比較的に良好な予後が期待されることが示唆されました。この研究では、四頭の生存馬のうち一頭が、対側肢における重度の負重性蹄葉炎(Severe support laminitis on the contralateral limb)を続発しましたが、深屈腱切断術(Deep digital flexor tenotomy)によって治癒しました。他の文献では、DCP(Dynamic compression plate)を用いての球節固定術によって、65%(34/52頭)の治療成功率が達成されたことが報告されています(Bramlage. Vet Surg. 1985;14:49)。
一般的に、LCPによる内固定法(Internal fixation)は、DCPによる内固定法に比べて、降伏強度(Yield strength)や硬度(Stiffness)が有意に高く、骨折軸の動揺(Movement at the fracture plane)を有意に減少できることが報告されています(Florin et al. Vet Surg. 2005;34:231)。また、螺子がプレート内に堅固に保持される構造であるため、プレートの形状が骨表面の形状と完璧に一致していなくても強度が落ちることが無く、骨膜(Periosteum)への障害が低いという利点もあります。しかし、螺子はプレートに対して常に直角に設置されるため、骨内への螺子の挿入角度(Screw insertion angle)に融通が利かないことを考慮して、箇所によっては通常の皮質骨螺子(Cortical screw)を使う必要がある場合もあります。
この研究では、六頭の患馬のうち、非生存馬の二頭は、いずれも冠関節(Pastern joint: Proximal inter-phalangeal joint)の脱臼(Luxation)を起こして安楽死(Euthanasia)となりました。これは、原発疾患(Primary disorder)に起因して繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)の連続性が失われて、冠関節の掌側支持機能(Palmar support function)が失われたためであると推測されています。このため、今後の研究では、術前のMRI検査や超音波検査(Ultrasonography)によって、繋靭帯を支持する結合組織の損傷度合いを診断して、球節固定術と冠関節固定術(Pastern arthrodesis)を同時に行うことで、冠関節脱臼の術後合併症(Post-operative complication)を予防する治療指針が有効であるかを評価するべきであると考察されています。
この研究では、六頭の症例のうち三頭に対して、球節掌側面(Palmar aspect of fetlock)に設置されたテンション・ワイヤーとして、ステンレス製ケーブル(Stainless steel cable)を圧着スリーブ(Crimping sleeve)で保定する術式が選択されました。また、球節に設置された経関節螺子(Trans-articular lag screw)は、近位基節骨の背側隆起(Dorsal eminence of proximal phalanx)から遠位管骨の顆状突起(Distal metacarpal condyle)の方向へと挿入されており、管骨から基節骨へと螺子挿入する場合に比べて、多くのスレッドを管骨内に刻んで、より堅固な経関節圧迫(Trans-articular compression)を作用させる術式が応用されました。
この研究における球節固定術の適応症は、前肢の繋靭帯合同装置の損失で、両軸性および片軸性の種子骨中央部粉砕骨折(Biaxial/Uniaxial comminuted mid-body fracture)、または繋靭帯断裂(Rupture of suspensory ligament)が含まれました。そして、発症から手術までの平均期間は7.3日で、成書で推奨されているものよりも長期間でしたが、この外科的療法の遅延そのものが予後に有意に影響した可能性は低い、という考察がなされています。
Photo courtesy of Vet Surg. 2008; 37: 263.
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