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馬の外科的疝痛におけるPCV値と心拍数

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馬の疝痛においては、その多くが内科的治療によって回復しますが、開腹術などの外科的治療を要するような重度の症例では、手術適応を早期判断したり、手術が選択肢で無いときには、アグレッシブな保存療法を初期段階で開始することが重要となります。このため、外科的疝痛の診断指標を確立させることが、馬の疝痛を診察する際に有益であると言えます。

ここでは、疝痛馬のPCV値と心拍数によって、内科的および外科的疝痛の鑑別と、短期生存率との関連性を調査した知見を紹介します。この研究では、スロベニアのリュブリャナ大学の獣医病院において、疝痛の診療を受けた125頭の馬の医療記録の回顧的解析、および、オッズ比(OR)やROC曲線下面積(AUC)の算出による鑑別能の評価が行われました。

参考文献:
Kos VK, Kramaric P, Brloznik M. Packed cell volume and heart rate to predict medical and surgical cases and their short-term survival in horses with gastrointestinal-induced colic. Can Vet J. 2022 Apr;63(4):365-372.

結果としては、PCV値の中央値を見ると、内科的疝痛では40%であったのに対して、外科的疝痛では48%と有意に高いことが分かりました。この結果、PCV値が1単位増すごとに、開腹術を要する確率が4.6%高くなる(OR=1.046)ことが示されました。例えば、PCV値が40%と48%の馬を比べると、後者の方が外科的疝痛になるリスクが四割以上高くなる(1.046の八乗は1.43)と予測されます。

一方で、心拍数の中央値を見ると、内科的疝痛では48回/分であったのに対して、外科的疝痛では75回/分と有意に高いことが分かりました。この結果、心拍数が1単位増すごとに、開腹術を要する確率が8.0%高くなる(OR=1.08)ことが示されました。例えば、心拍数が48回/分と75回/分の馬を比べると、後者の方が外科的疝痛になるリスクが八倍近く高くなる(1.08の27乗は7.99)と予測されます。

また、PCV値と心拍数による外科的疝痛の鑑別(開腹術の必要性)では、中程度の鑑別能(AUC=0.79)が達成され、感度は0.77、特異度は0.81となりました。つまり、PCV値と心拍数の適切なカットオフ値を確立できれば、それに基づいて、その馬が開腹術を要すると予測された場合には、それが外れる割合は約四頭に一頭(偽陰性=1-0.77=0.23)となりますが、その逆に、その馬が開腹術は不要だと予測された場合には、約五頭に一頭で外れる(偽陽性=1-0.81=0.19)というデータが示されました。

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この研究のPCV値では、疝痛の原因を小腸疾患と大腸疾患に分類したときに、興味深い解析結果が示されました。疝痛馬のうち、開腹術を要した小腸疾患に限ってみると、発症から五時間未満でのPCV値は40%(中央値)に過ぎず、内科的疝痛と同等に留まっていましたが、発症から五時間以上経ったあとのPCV値は52%(中央値)と有意に高くなっていました。つまり、初診時にPCV値が正常であったケースでも、小腸疾患が疑われる症例においては(経鼻チューブで多量の胃逆流液が見られた場合など)、経時的にPCV値を測って変化を監視していないと、数値上昇を見逃して、開腹術適応の判断が遅れてしまう危険があると考えられました。

以上の結果から、疝痛馬を検査するときには、PCV値や心拍数を診断指標とすることで、内科的疝痛と外科的疝痛を鑑別診断する一助になることが示唆されました。ただ、鑑別能は"非常に良好"というレベル(AUCが0.9以上)には達していなかったため、今後は、より多症例のデータを解析して、此処の地域ごとに最適なカットオフ値を決めることで、鑑別診断の信頼性を向上できると言えます。

この研究では、疝痛馬の短期生存率(生存して退院した馬の割合)を見ると、症例全体では78%(98/125頭)でしたが、このうち、内科的疝痛では94%(60/64頭)に上ったのに対して、外科的疝痛では62%(38/61頭)と顕著に低いことが示されました。また、外科的疝痛だけの生存率を見てみると、大腸疾患では69%(22/32頭)であったのに比べて、小腸疾患では55%(16/29頭)に留まっていました。

そして、この研究では、PCV値や心拍数が生存率とも相関していることが確認されました。内科的疝痛のPCV値(中央値)を見ると、生存馬(40%)と非生存馬(46%)のあいだで有意差は無かった一方で、外科的疝痛のPCV値(中央値)を見てみると、生存馬(42%)よりも非生存馬(52%)のほうが有意に高値を示していました。また、内科的疝痛の心拍数(中央値)を見ると、生存馬(48回/分)よりも非生存馬(85回/分)のほうが顕著に高値であった一方で(統計的有意差は無し)、外科的疝痛の心拍数(中央値)を見てみると、生存馬(70回/分)と非生存馬(80回/分)のあいだで大きな差異はありませんでした。

また、PCV値と心拍数による生存予測では、良好な鑑別能(AUC=0.86)が達成され、感度は0.56、特異度は0.95となりました。つまり、PCV値と心拍数の適切なカットオフ値を確立できれば、それに基づいて、その馬が生存できないと予測された場合には、それが外れる割合は20頭に一頭(偽陰性=1-0.95=0.05)に過ぎませんが、逆に、その馬が生存できると予測された場合には、約五頭に二頭で外れる(偽陽性=1-0.56=0.44)というデータが示されました。

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以上の結果から、疝痛馬の治療に際しては、PCV値や心拍数を目安として、生存予測をする一助になる可能性が示唆されました。このうち、内科的疝痛の生存予測では心拍数、外科的疝痛の生存予測ではPCV値が有用な指標になりうると考えられますが、やはり鑑別能には改善の余地が認められたため、追加研究によるカットオフ値の最適化が求められると言えそうです。

この研究の限界点としては、PCV値と心拍数以外の検査所見による影響は解析されていない点が挙げられています。一般的に、疝痛の原因となる疾患のタイプやステージによっては、疼痛症状の重篤度、直腸検査やエコー検査の所見、血中乳酸値、および、腹水検査などの方が、開腹術の必要性や生存率を判断する指標として有益な場合もあると推測されます。また、単一の検査所見に依存するよりも、複数の所見を合算してスコア化することで、より信頼性の高い指標として活用する方法も考えられます。一方、PCV値や心拍数を指標とするケースでも、初診時の一回の検査値ではなく、治療の前後で測ってその変化を評価することで、より高い鑑別能を得られる可能性もあります。例えば、PCV値が高値であっても、5〜10リットル程度の補液で明瞭に数値が下がったり、顕著な頻脈が認められた場合であっても、鎮痛作用がそれほど強くない薬剤(バナミン等)の投与で、速やかに正常範囲まで戻るのであれば、開腹術の必要性は低く、生存率も高いという判断になるかもしれません。

この研究では、初診時での疝痛の経過時間(中央値)を見ると、生存馬(8時間)よりも非生存馬(18時間)の方が有意に長くなっており、疝痛の早期診断および早期治療の重要性を再確認させるデータであると言えます。一方、疾患のタイプ別に見てみると、開腹術を要した小腸疾患では、初診時での疝痛の経過時間は4時間とかなり短かったのに対して、開腹術を要した大腸疾患では25時間と顕著に長くなっていました。この理由としては、空腸絞扼などの小腸の外科的疾患では、痛みが強く、発症の直後に獣医師への連絡が成されたと推測されますが、その一方で、大腸の外科的疾患の中には、非絞扼性の結腸変位や骨盤曲食滞など、漸増性の疼痛を呈する症例も多かったためと考えられました。しかし、大腸の外科的疾患だけのデータを見ると、初診時での疝痛の経過時間(中央値)は、生存馬(16時間)のほうが非生存馬(33時間)よりも短かったことから、たとえ疼痛症状が軽い大腸疾患であっても、内科治療で引っ張り過ぎることは避け、手術適応の判断が遅れないように努めることで、生存率の向上に繋がると考察されています。

この研究の調査対象となった疝痛馬では、平均年齢は9.7歳と比較的高く、また、サラブレッドなどの軽種馬は、全体の8%に留まっていました。このため、年齢や品種の分布は、日本の飼養馬のそれとはかなり異なると推測されるため、データの解釈ではこの点に留意すべきと言えそうです。
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