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疝痛の獣医療での地域差:イスラエル

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馬の疝痛では、各地域で飼養されている馬の品種や年齢、用途、飼養形態などの要因に起因して、発症状況や医療ケアの方針に関して地域差が生まれると考えられます。そして、どの要因が、どのような地域差に繋がるのかを知ることで、海外の知見を日本での馬の獣医療に応用する際に、どのエビデンスを重視するか、または、重視するべきではないのかを推測するのに役立つと言えます。

ここでは、中東のイスラエルにおける、馬の疝痛の獣医療に関する知見を紹介します。この研究では、イスラエルのエルサレム大学の獣医病院において、2003〜2006年にかけて、疝痛の診断および治療のために外来した208頭の馬における医療記録の回顧的調査と、オッズ比(OR)の算出によって危険因子が解析されました。

参考文献:
Sutton GA, Ertzman-Ginsburg R, Steinman A, Milgram J. Initial investigation of mortality rates and prognostic indicators in horses with colic in Israel: a retrospective study. Equine Vet J. 2009 May;41(5):482-6.

結果としては、症例全体の死亡率は25%(51/208頭)であったものの、そのうち、大腸疾患での死亡率は26%(28/108頭)に留まったのに対して、小腸疾患での死亡率は63%(17/27頭)に達していました。また、絞扼性疾患の死亡率は60%(30/50頭)に及んでいたのに比較して、非絞扼性疾患の死亡率は18%(15/85頭)に過ぎませんでした。このように、小腸疾患および絞扼性疾患での死亡率の高さは、他国の知見とも一致していますが、小腸疾患における死亡率は、米国や英国の文献でのそれよりも高い傾向になっていました。この要因としては、今回の症例群に含まれる重篤例の多さが挙げられており、外科的治療(開腹術)が必要となった症例は、全症例の65%に及んでいました。そして、内科的治療された馬の死亡率は7%(5/72頭)であったのに対して、外科的治療が選択された馬の死亡率は34%(46/136頭)に上っていました。

一方で、この研究では、安楽殺を嫌うという文化的な特徴が、重篤症例の死亡率の高さに影響した可能性もあると考察されています。つまり、他の文献では開腹術に踏み切った症例を分母として死亡率を計算していたため、この研究では、術前検査の段階で予後不良と判断されて、安楽殺される症例数が少なかったことで、結果的に、開腹術後に生存できない馬の割合が高くなったと推測されています。

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この研究では、多因子の回帰分析において、絞扼性疾患(OR=3.8)や外科的治療(OR=4.6)のほうが、死亡する確率が四〜五倍も高いことが分かりました(前者は小腸疾患に限定した場合)。一方、疝痛馬の検査所見としては、口腔粘膜の色が異常であった馬では、死亡する確率が七倍近く高い(OR=6.6)ことも報告されています。この理由としては、口腔粘膜の異常色を引き起こすことの多い内毒素血症、および、それに続発する敗血症(いわゆる全身性炎症反応症候群: SIRS)の発症が、予後不良に繋がったためと推測されます。このため、二次診療施設での開腹術や内科的な集中治療を、早期に決断かつ実施することで、生存率の向上に繋げられると考えられました。

この研究では、単因子解析による危険因子の評価では、心拍数、ヘマトクリット値、赤血球数などが死亡率と相関しており、いずれも測定値が高いほど、死亡率が有意に高くなっていました。しかし、これらの項目は、多因子解析では有意性が示されなかったことから、個々を独立して見るよりも、複数の測定値を複合させて予後判定の指標として活用することが有用だと考えられました。また、これらは、多因子解析で有意となった項目(絞扼性疾患や口腔粘膜の色など)との統計的相互作用があったと推測されるため、特定の条件下では有益な指標になる可能性もあると言えます。

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この研究での疝痛馬のうち、最も多かった品種はクォーターホース(26.9%)で、次いでアラビアン(25%)となっており、サラブレッドは5.3%に留まっていました。また、平均年齢は7.5歳でした。このため、日本のように、サラブレッド種の多い地域における疝痛の発生状況とは、異なった傾向が示される可能性はありそうです。一方で、性別の分布としては、牝馬が65.9%に達しており(妊娠牝馬は17.3%)、騸馬は18.3%、牡馬が15.9%に過ぎませんでした。このように、牝馬の割合が多かった原因は考察されておらず、純粋にメス馬の飼養頭数が多い地域性なのか、それとも、オス馬には高額な疝痛治療が選択されにくいバイアスが働いた(その結果、二次診療施設には搬入されなかった)ためなのかは不明でした。

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