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疝痛の獣医療での地域差:ケニア

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馬の疝痛では、各地域で飼養されている馬の品種や年齢、用途、飼養形態などの要因に起因して、発症状況や医療ケアの方針に関して地域差が生まれると考えられます。そして、どの要因が、どのような地域差に繋がるのかを知ることで、海外の知見を日本での馬の獣医療に応用する際に、どのエビデンスを重視するか、または、重視するべきではないのかを推測するのに役立つと言えます。

ここでは、アフリカのケニアにおける、馬の疝痛の獣医療に関する知見を紹介します。この研究では、ケニアのナイロビにある四箇所の馬診療施設において、2004〜2014年にかけて、疝痛の診療を受けた375頭の症例馬における医療記録の回顧的解析が行われました。

参考文献:
Gitari A, Nguhiu J, Varma V, Mogoa E. Occurrence, treatment protocols, and outcomes of colic in horses within Nairobi County, Kenya. Vet World. 2017 Oct;10(10):1255-1263.

結果としては、調査対象の施設における十年間の診療総数は12,077頭で、このうち疝痛は375頭で、疝痛症例の割合は3.1%となっていました。そして、疝痛のタイプとしては、痙攣疝が68.0%と最も多く、次いで、便秘疝が27.8%、変位疝が4.2%となっていました。更に、変位疝のうち、腸捻転が75%と最も多く、次いで結腸の右背方変位が12.5%、結腸の左背方変位が6.3%、有茎性脂肪腫が6.3%でした。

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この研究では、疝痛症例の全体における死亡率は5.6%(21/375頭)であったことが報告されています。このうち、疾患ごとの死亡率を見ると、痙攣疝では0%(0/255頭)、便秘疝では5.8%(6/104頭)であったのに対して、腸捻転の死亡率は100%(12/12頭)であり、結腸の右背方変位でも100%(2/2頭)、有茎性脂肪腫でも100%(1/1頭)でした。つまり、変位疝になった症例(16頭)のうち、生存したのは結腸の左背方変位を呈した1頭のみとなっていました。

この研究が行われたケニアのナイロビでは、馬の手術施設が無く、疝痛の開腹術は行われていなかったため、変位疝の殆ど全頭が死亡したという成績が示されたと考えられます。しかし、疝痛で死亡した馬の割合は、疝痛症例のうち5.6%で、全症例のうち0.17%(21/12,077頭)に過ぎませんでした。更に、たとえ馬の手術施設を整備して、死亡症例の全頭を助けられたと仮定しても、その頭数は年間で約2頭に過ぎないため(十年間で21頭)、費用対効果に見合わなかった可能性があります。加えて、疝痛の開腹術が年2回程度の頻度だと、迅速に必要人員を揃える体制や、執刀医や麻酔医の技量を向上及び維持する点でも課題が多いと推測されます。もしかすると、日本でも、一部の地域のウマ医療においては、同様な状況があるのかもしれません。なお、今回の調査地域であるケニアの首都圏は、人口が約1,000万人で、馬の飼養頭数が約3,000頭であり、日本の東京圏や大阪圏に近いと言えそうです。

この研究では、疝痛への疼痛制御として、フルニキシン(バナミン)のみを投与した症例が85.3%に上っており、他には、フルニキシンとブトルファノールの併用が6.4%、ブスコパンが投与された場合が5.9%となっていました。また、疝痛の診断および治療として、経鼻チューブ(胃カテーテル)が挿入されたのは30.9%に留まっており、挿入されなかった症例の殆どは(94%)、痙攣疝が疑われたケースでした。

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この研究では、疝痛馬の生死に関わる因子も解析されており、経鼻チューブの使用、および、鎮痛剤(ブトルファノール)の投与が、死亡率と正の相関を示していました。勿論このデータは、これらの治療法が死亡原因となった訳ではなく、経鼻チューブが不要な痙攣疝や、バナミンだけで疼痛管理できた痙攣疝や便秘疝では、生存率が高かったことが影響したためと推測されます。この解析では、疝痛のタイプも有意な危険因子でしたが、多因子解析による相互作用の評価は行われていないため、特定の疾患において、経鼻チューブや鎮痛剤が生存率を上げたか否かは分かりませんでした。

この研究は、発展途上国における疝痛馬の医療ケアに関する状況が報告されている点で、非常に興味深いと感じています。具体的には、軽度疝痛にはバナミン投与のみ行なうケースが多いこと(経鼻チューブを入れない場合が過半数)、直腸検査や腹部エコー検査は殆ど実施されないこと、開腹術を行なう施設が未整備であること、などが述べられている事が挙げられます。また、”痙攣疝”(Spasmodic colic)という用語自体が、厳密には診断名ではなく、腸蠕動が正常以上に増加していることを指す症状名であり、この痙攣疝が七割近くを占めている点も特徴的です。しかし、疝痛馬の診察が業務全体の3%に過ぎないとしても、94.4%という生存率の”低さ”を改善していくため、疝痛診断の信頼性向上や、外科的疝痛の治療体制の構築を図っていく、という努力を忘れるべきではないのかもしれません。

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