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馬の食道切開術

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一般的に、食道(Esophagus)という組織に対する手術では、重篤な雑菌混入(Severe bacterial contamination)が起きやすく、複数の筋層の機能回復を要するという特徴から、外科的手技の難易度が高いことが知られています。以下は、食道切開術(Esophagotomy)についての概要解説です。

馬における食道切開術は、難治性の食道閉塞(Refractory esophageal obstruction)の遊離、嚥下した異物の除去(Foreign body removal)、管腔内の腫瘤切除(Intralumenal mass resection)などのために実施されます。頚部腹側切開創から食道に到達する際には、頚動脈(Carotid artery)、反回神経(Recurrent nerve)、迷走神経(Vagal nerve)まどを包んでいる頚動脈鞘(Carotid sheath)を傷付けないこと、周囲軟部組織を剥離し過ぎて死腔を作らないこと、食道を外膜床(Adventitia bed)から挙上させてしまわないこと、等に注意することが重要です(下図A)。

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食道内腔への到達は、筋層(Muscle layer)、粘膜下組織層(Submucosal layer)、粘膜層(Mucosal layer)の縦軸切開創(Longitudinal incision)を介して行われ、閉塞部または経鼻挿入した胃カテーテル端を触診して、適切な切開部位を確かめる事が大切です(上図B)。

食道壁の損傷が重篤でないと判断された場合には、粘膜層を単純連続縫合(Simple continuous pattern)で閉鎖した後、筋層を単純結節縫合(Simple interrupted pattern)で閉鎖します。同様に皮下組織および皮膚を縫合してから、切開創より腹部側に穿刺切開創(Stab incision)を設けて、ドレインチューブを設置します。術後は、最低2~3日間は絶食とし、48時間後にドレインを除去します。

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食道壁の浮腫(Edema)によって治癒遅延が起こると判断された場合や、壊死病巣(Necrotic lesion)の切除によって縫合部に過剰緊張を生じると考えられる症例においては、損傷部よりも下側に食道造瘻術(Esophagostomy)を行って留置管を胃へと挿入し、7~10日間にわたってその管を介して給餌を行うことで、健常な肉芽組織生成(Healthy granulation tissue formation)を促します(上記写真)。留置管の除去後には、通常飼料の給餌が行われますが、地面から摂食した場合、鬐甲より高い位置から摂食した場合のいずれにおいても、食道切開部の小孔(Stoma)から摂食物が漏出する危険が高いため、できるだけ頚部が水平となる位置に飼い桶を設置することが推奨されています。

Photo courtesy of Equine Surgery, 3rd edition. Eds: Auer JA and Stick JA, 2006, WB Sounders (ISBN 1-4160-0123-9).


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