馬の食道筋切開術
診療 - 2023年02月19日 (日)

一般的に、食道(Esophagus)という組織に対する手術では、重篤な雑菌混入(Severe bacterial contamination)が起きやすく、複数の筋層の機能回復を要するという特徴から、外科的手技の難易度が高いことが知られています。以下は、食道筋切開術(Esophagomyotomy)についての概要解説です。
馬における食道筋切開術は、食道狭窄(Esophageal stricture)における内腔拡張のために実施されます。しかし、食道閉塞に続発する狭窄症は、食道壁の損傷部の治癒に伴って自然回復(Spontaneous recovery)を示す場合も多いため、1~2ヶ月にわたる保存性療法(Conservative therapy)に不応性を示した症例に対してのみ外科療法が応用されます。
手術では、狭窄部の前後1cmの範囲にかけて筋層を縦軸切開した後(上図A)、粘膜層と筋層のあいだを剥離して狭窄部位の緊張緩和を施し(上図B)、筋層の切開創は縫合閉鎖せずに皮下織と皮下の縫合と、切開創腹側へのドレイン設置を行います(上図C)。この際には、術中内視鏡検査(Intra-operative endoscopy)によって内腔の拡張度合いをモニタリングする手法が有用で、重篤な食道狭窄では筋層の一部を切除する必要がある場合もあります。

術後には、細かく刻んだ青草&ふやかしたペレットなどの柔らかい飼料の給餌を行い、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の全身投与も併用します。通常飼料への復帰が早すぎると、瘢痕性狭窄(Cicatricial stricture)によって食道の再狭窄化を起こす可能性があるため、経時的な内視鏡&超音波検査によって給餌開始時期を的確に見極めることが大切です。
Photo courtesy of Equine Surgery, 3rd edition. Eds: Auer JA and Stick JA, 2006, WB Sounders (ISBN 1-4160-0123-9).