馬の食道切除術
診療 - 2023年02月20日 (月)

一般的に、食道(Esophagus)という組織に対する手術では、重篤な雑菌混入(Severe bacterial contamination)が起きやすく、複数の筋層の機能回復を要するという特徴から、外科的手技の難易度が高いことが知られています。以下は、食道切除および吻合術(Esophageal resection and anastomosis)についての概要解説です。
馬における食道の部分切除術(Partial resection)および吻合術は、難治性の食道狭窄(Refractory esophageal stricture)、食道穿孔(Esophageal perforation)、先天性の食道狭窄症(Congenital esophageal stenosis)、食道腫瘍(Esophageal neoplasia)などの病巣切除のために実施されます。手術では、食道筋切開術(Esophagomyotomy)と同様に、筋層を縦軸に切開して(下図A)、粘膜層から周回剥離(Circumferential elevation)した後(下図B)、筋層を残したまま羅患部位の粘膜層を切除します(下図Bの点線)。
粘膜層の断端部(Mucosal cut edges)に掛かる緊張度が少ないと判断された場合には、断端同士を単純連続縫合(Simple continuous pattern)で整復します(下図C)。病巣が粘膜層に限局していた場合には筋層も縫合閉鎖しますが、筋層を含む環状狭窄(Annular stenosis)を呈した病態では筋層は開放させたままとします。過剰緊張によって粘膜層断端同士の縫合が困難であると判断された場合には、筋層のみを縫合閉鎖して、粘膜層の二次性癒合を促します。

食道吻合術後には、術創の治癒促進のため、羅患部位より遠位側に設けた別の切開創から、食道造瘻術(Esophagostomy)を施して胃カテーテルを留置し、その管から給餌を行うことが推奨されています。術創が頚部の下方にあり胸郭入口部(Thoracic inlet)に近過ぎて食道造瘻術が困難な場合には、術後の48時間は絶食させ、その後の最低10日間にわたって細かく刻んだ青草&ふやかしたペレットなどの柔らかい飼料を給餌することが必要です。
馬における食道の完全切除術(Complete resection)および吻合術は、治癒に長期間を要し、術後合併症(Post-operative complication)の危険が高いことから、食道穿孔に伴う筋層壊死(Muscular layer necrosis)が重篤な症例に対してのみ実施されています。上述の手技と同様に、粘膜層および筋層の羅患部位を切除しますが、この際には、切除部位の近位&遠位側の食道は、周回させたドレインチューブを鉗子で挟んで保持し、Crushing clamp等の食道壁を傷付ける器具の使用は禁忌とされています。
粘膜層の断端同士を単純連続縫合で整復した後、筋層の断端同士を単一水平マットレス縫合(Interrupted horizontal mattress pattern)で整復します。筋層の縫合糸への緊張が過度であると判断された場合には、術創の近位&遠位側へ4~5cmの位置に、周回筋切開術(Circular myotomy)を施して緊張遊離(Tension release)を行う手法が用いられます。

術後には、術創への緊張を緩和させるため、包帯を用いてのスタンディングマルタンガール(Standing Martingale)を装着させ、頚部の伸展を予防することが重要です(上記写真)。患馬への給餌は部分切除術と同様に、食道造瘻術によって設置させた胃カテーテルを介して行うことが推奨されています。
Photo courtesy of Equine Surgery, 3rd edition. Eds: Auer JA and Stick JA, 2006, WB Sounders (ISBN 1-4160-0123-9).