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冬でも馬に飲水させる7つの対策

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冬場に、馬が十分に飲水してくれるか否かは、ホースマンにとっては、大きな心配事の一つなのかもしれません。ここでは、冬でも馬に自発的に飲水させる方策を解説した記事を紹介します。

参考資料:
Janice L. Holland, PhD. How to Keep Your Horse Hydrated During the Winter. The Horse, Topics, Horse Care, Nutrition: Dec24, 2022.



馬が冬の寒さを乗り切るためには、暖かい馬着を着せたり、風雨を避ける小屋を放牧地に整備することも有用ですが、質の良い飼料を給餌して、健常な腸内発酵を促すことも、体温維持のために重要になります。なぜなら、草食動物である馬は、発酵タンクである巨大な大腸(盲腸や結腸など)を持っており、それが体熱の産生源として大きな割合を占めているからです。

しかしながら、質の良い飼料を考える際には、馬にとって最も重要な栄養素は「水」であることを忘れてはいけません。馬体が脱水を起こさず、適切な水和状態を保っていることは、消化管内での発酵や吸収の機構にとって不可欠なだけではなく、正常な体液平衡や血液循環を介して、消化管から体の隅々まで酸素や栄養を届けるのに必須となります。

さらに、血液が酸素と栄養を送り届けることによって、体の中心で暖められた血液が肢端まで達することになり、からだ全体の温度が維持されることに繋がるのです。つまり、馬に必要量の飲水をさせることは、消化器の機能を維持するだけでなく、馬体全体の恒常性を保つために必要不可欠であると言えます。



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一般的に、健常な馬における一日の維持水分量は、体重1kg当たり60mLであり、500kgの成馬における維持水分量は一日30リットルに上ります。もし、馬の飲水量が、この維持水分量を下回っていると、大腸での正常な発酵が出来なくなるのみならず、食渣の物理的移動も滞ってしまい、便秘疝を引き起こしてしまいます。

多くの馬は、寒冷な冬季において自発的な飲水が減りますが、その理由としては、水桶の飲料水が冷たくなり、それを嚥下するのを躊躇してしまうことが挙げられます。また、発汗の少ない冬場には、摂水中枢が刺激されにくく、ノドの渇きを感じにくいこと、および、飲料水が凍結して、物理的に飲水が妨げられる時間帯が出てしまうことも要因になりえます。

以上を踏まえると、冬に馬の飲水量を維持するためには、下記のような対策が有用になってきます。



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対策1:
気温が低下する日が分かったら、その前日には、水桶に十分な飲料水があることを確かめたり、フスマ水などを用手給水するようにします。そうすることで、寒くなった日に深刻な脱水を起こさないよう、馬体を前もって備えておくことに繋がります。



対策2:
気温が急激に下がった日には、水桶内の飲料水の水温を上げることで、馬の自発的な飲水を促します。たとえば、水桶に給水するときに、水の代わりにお湯を入れる方法が考えられますし、その他には、一日に数回、水桶内の水にコップ1杯の熱湯を注いで回ることも、飲料水の温度を上げる簡単な手法です。



対策3:
気温が低下して水道管が凍結する危険がある場合には、厩舎で給水用の水が不足しないよう、事前にタンクに飲料用水を貯めておくのも一案です。また、放牧飼いの馬に対しては、電気ヒーターを整備して、水桶が凍って飲水不可となってしまうのを回避します(ヒーターは定期点検して、感電事故を防ぐことが重要)。



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対策4:
気温が低下した日の朝には、水桶に張った氷を砕いて、氷片を取り除くことで、馬が通常どおりに飲水できることを確認しましょう。馬が鼻先で押すタイプのウォーターカップを使っている場合には、正常に水が出るかを、最低でも一日二回はチェックするようにしましょう。



対策5:
馬の飲水対策としては、水桶だけ見るのではなく、馬体を見ることも重要であり、特に、馬体が脱水状態になっていないかを注意深く監視することが推奨されます。具体的には、皮膚つまみ試験(頚部の皮膚をつまみ上げて1秒以内に戻るのが正常)、および、毛細血管再充満試験(上唇をめくって、歯肉粘膜を押して離したあと、元通りのピンク色に2秒以内に戻るのが正常)が、馬体の水和状態を確かめるのに有用の検査法です。

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対策6:
飼料管理に関連する対策としては、乾草やビートパルプを、水に浸してから給餌することで、摂取する水分量を増やす方法も有益です。この際には、できれば冷水ではなくお湯を用いて、15分間以上は浸すことが推奨されます。ただ、馬によっては、水に浸すことで嗜好性が落ちて、食欲が減退してしまい、結果的に飲水も減ってしまうこともあるため、常に残飼量をチェックしておくようにしましょう。



対策7:
普段の健康管理としては、適切な歯科ケアを実施して、正常に咀嚼できるようにしておくことも、馬の脱水予防につながります。馬が長時間にわたって咀嚼して、飼料と一緒に多量の唾液を嚥下すると、摂水中枢を刺激することが出来ます。なぜなら、消化管の内腔も、体液灌流のプロセスでは、馬体にとって"体外"ですので、そこに唾液が流れ出るという事は、発汗で水分が出ていくのと同じであり、渇水による自発飲水の促進に繋がるからです。

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獣医栄養学の研究によれば、馬が飲水行動を取るのは、摂食中と摂食後の3時間に集中することが知られています。このため、朝昼夕の飼い付けと、その直後の時間帯に、十分な量で、かつ適切な温度の飲料水が提供されていることが、馬の自発的な飲水を促すのに重要となってきます。

それに加えて、馬体の水和状態を毎日チェックして、脱水を早めに発見することも、飲水不足から起こる病気を未然に予防するのに大切であると言えるでしょう。このため、上述のような脱水の検査方法(対策5)が分からなければ、最寄りの獣医師に相談して、やり方を教えてもらうようにしましょう。

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