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馬の文献:離断性骨軟骨炎(McIlwraith et al. 1991)

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「下腿足根関節の離断性骨軟骨炎:関節鏡治療の結果」
McIlwraith CW, Foerner JJ, Davis DM. Osteochondritis dissecans of the tarsocrural joint: results of treatment with arthroscopic surgery. Equine Vet J. 1991 May;23(3):155-62.

この症例論文では、馬の飛節の離断性骨軟骨炎(OCD)における外科的治療の効能を評価するため、下腿足根関節にOCD病変を生じて、関節鏡手術による骨片摘出や病巣掻爬が行なわれた225頭の症例馬(318箇所の関節)における、医療記録の回顧的解析が実施されました。

結果としては、長期的な経過追跡ができた馬のうち、競走馬としてレース使役された馬、または、意図した用途に使役された馬の割合は、76.5%(140/183頭)に達していました。残りの43頭のうち、下腿足根関節の問題が持続していたのは11頭のみで、その他は、飛節以外の跛行(8頭)や跛行以外の健康問題(19頭)が要因となっていました。このため、馬の飛節OCDに対しては、関節鏡による骨片摘出によって比較的に良好な予後が期待され、外科的治療の手法とした有用であると結論付けられています。

この研究は、90年代初頭のもので、馬の運動器疾患に対して、関節鏡という手技が応用され始めた黎明期の論文ですが、それでも、八割近い症例において良好な予後が達成されており、関節腔内の骨片を、侵襲性を抑えながら取り出せるという関節鏡の利点が、治療成績に如実に反映されたものと考えられます。ただ、手術後に細菌性関節炎を続発して廃用となった馬も3頭いたことから、関節鏡もゼロリスクではないことに注意して、適切な外科的手技を実践することの重要性が示された論文であるとも言えそうです。

この論文では、脛骨中間稜の骨片サイズは、予後とは相関していなかったものの、関節軟骨の変性または糜爛は、治療成績を有意に悪化させるというデータが示されていました。このため、OCD片が発見された馬では、骨片が周囲の軟骨を傷付けてしまう前に、速やかに摘出した方が良いという考察がなされています。ただ、OCD病変は、自然治癒するケースもあることから、骨片の大きさや発生場所によっては、慎重に手術適応を判断する必要があると言えます。

この論文では、関節鏡の手術後に関節膨満の症状が消失した馬の割合は、症例全体では89.3%で、競走馬以外の症例に限って言えば74.4%に留まっていました。このため、関節鏡でOCD片が取り除かれた後でも、滑膜炎や他の関節内病態が難治性の場合には、関節液増量(=関節膨満)の徴候が残ってしまうケースもあると考えられました。なお、関節膨満が消失しない症例の割合は、脛骨中間稜よりも、外側滑車や内顆の病変に多くなっており、これらの部位が滑走摩擦力を強く受けることに起因すると推測されましと。一方で、関節膨満の度合いと、競走・競技能力の回復には、有意な相関は無かったというデータも示されています。

この論文では、馬の飛節OCDでは、脛骨の中間稜に最も病変を生じ易いことが再確認されており、中間稜のみが罹患したのは77%(244/318関節)であり、中間稜と他部位が罹患したものを含めると83%(262/318関節)に上っていました。また、中間稜の骨片の多くは、背内-底外斜位撮影像(所謂DMPLO像)のX線検査で視認可であり、画像上の骨片サイズは実寸に概ね一致していましたが、骨片の後ろがわ(底部側)での軟骨下骨の細片化は、関節鏡でしか確認できない場合も多かったことが報告されています。

この論文では、術前のX線では視認されなかった骨片が、関節鏡下で発見されるという事例が、13箇所の関節で認められました。このうちの9箇所は、術前X線で見つかっていたメインの病変を処置した後の探索で発見されており、内顆(4/9箇所)、外側滑車(3/9)、内側滑車(2/9)などの病変でした。一方で、他の4箇所は、施術された飛節ではなく、対側肢の飛節(関節膨満は起こしていた)にて偶発的に見つかったもので、中間稜(3/4箇所)や内顆(1/4)の病変でした。このため、飛節OCDの関節鏡では、術前の画像診断で見逃した病変がある可能性を考慮して、既知の病変以外の関節領域も入念に探索すると同時に、反対側の飛節についても、たとえ術前画像で病変が見当たらなくても、関節包が膨満しているのであれば、関節鏡を入れてみて関節腔を探索することが推奨されると言えそうです。

この論文では、飛節OCDの病変の状態は、病変の発生箇所によって多様性が見られました。脛骨の中間稜の病変は、遊離可能な骨片の形態を取ることが殆どでしたが、関節面と堅固に癒着している場合もあり、また、関節面の欠損のみ見られて、骨片自体は関節腔の他の場所で発見されるというケースもありました。一方で、外側滑車の病変は、骨片の形態以外にも、滑車自体の糜爛や絨毛新生を伴うこともあり、更に、骨片下の関節軟骨の病変を併発していることもありました。そして、内顆の病変では、その多くが骨片の形態を取るものの、飛節を用手操作して脛骨を持ち上げた時だけ認められる病変もありました。

この論文では、脛骨中間稜のOCD病変は、関節鏡下で良好に摘出可能であったものの、手技の重要なポイントとしては、以下が挙げられています:①中間稜の全域を視認するためには、カメラポータルを十分に背側に設けること(飛節の前面側の位置を穿孔させる)、②ロンジュールで掴む前に、骨片をシッカリと剥離しておくこと(病変ベッドとの固着を剥がしてからでないと骨片を摘出できない)、および、③適切なサイズのロンジュールを用いることで、堅固に骨片を把持すること(低侵襲性を気にして小さめのロンジュールを選ぶと、十分な力で骨片を把持できなくなる)。一方、外側滑車のOCD病変は、中間稜よりも手技の難易度が高いため(隣接する滑膜が覆いかぶさってきて視野が確保しにくいため)、関節内圧低下による関節包コラプスを避けるため、器具ポータルを開ける前に、外側滑車の内診を完了することが推奨されています。さらに、内顆の病変の処置は、手技的には難しくなく、カメラポータルを関節外側に、器具ポータルを関節内側に設けても施術可能であるものの、広い術野を得るためには、カメラポータルを関節内側に開ける方針も推奨されています(この場合も、関節内側部に別の器具ポータルを設けるスペースは十分にあるため)。

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