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突然死した競走馬の剖検に関する国際的調査

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一般的に、突然死(サドンデス)とは、健康な生活を営んでいた個体が急に死亡する現象を指します。幸いにも、ヒトでも動物でも、極めて稀な事象ではありますが、治療は間に合わないため、如何に未然に防ぐかが鍵となります。このため、馬の突然死においても、その病因の特定、および、発生に寄与する危険因子を解明して、突然死の予防を図ることが重要になってきます。

ここでは、馬の突然死における剖検所見を、多国間で収集および解析した知見を紹介します。この研究では、米国、英国、豪州、香港、そして、日本において、1990〜2008年に掛けて、突然死した268頭のサラブレッド競走馬における、剖検所見の回顧的解析、および、オッズ比(OR)の算出による危険因子の評価が行なわれました。なお、突然死とは、見た目が健康で、十分に観察されていた個体が、運動中または運動後の1時間以内に死亡した事例と定義されました。

参考文献:
Lyle CH, Uzal FA, McGorum BC, Aida H, Blissitt KJ, Case JT, Charles JT, Gardner I, Horadagoda N, Kusano K, Lam K, Pack JD, Parkin TD, Slocombe RF, Stewart BD, Boden LA. Sudden death in racing Thoroughbred horses: an international multicentre study of post mortem findings. Equine Vet J. 2011 May;43(3):324-31.

結果としては、剖検によって突然死の病因が確定診断されたのは53%(143/268頭)に留まっており、推定診断のみが下されたのが25%(67/268頭)、原因不明であったのが22%(58/268頭)となっていました。このうち、確定診断名としては、肺出血が18.7%と最も多く、次いで、特発性の肺外脈管破裂が9.0%、心不全が6.0%、肺不全が4.1%、頚椎骨折が4.1%、骨盤骨折が3.4%となっていました。一方、推定診断名としては、推定心不全が14.9%で、推定心肺不全が10.1%でした。

この論文では、突然死した競走馬の26.9%(72/268頭)において、慢性の肺病変が確認されており、これには、ヘモジデリン含有マクロファージ、肺組織の慢性炎症、肺線維化症などが含まれました。このため、過去に発症した肺疾患の治癒が不十分で、肺組織の微細損傷が蓄積して、致死的な肺出血に至ったという可能性が示唆されました。しかし、競走馬に好発する運動誘発性肺出血(EIPH)が、本研究での致死的肺出血と同じ発症メカニズムを介するかは不明であると考察されており、同疾患の予防対策が突然死に対しても有益であるかは結論付けられていませんでした。

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この論文では、突然死を起こしたタイミングとしては、運動中が53.7%で、運動後が42.5%となっており(残りの3.7%はタイミング不明)、実は、四割以上の症例において、運動終了から突然死するまでに、ある程度の時間が経っていることが分かりました。このため、運動直後の身体検査や心電図によって、突然死の原因疾患を検知できれば、何らかの救急治療を施して、突然死を回避できた可能性は否定できないのかもしれません。

この論文では、国や地域によって、突然死の病因に多様性が認められました。たとえば、急性肺出血によって突然死が引き起こされる割合は、米国のカリフォルニア州を比較対象とした場合、豪州では三倍(OR=3.00)、米国のペンシルベニア州では六倍以上(OR=6.53)であったのに比べて、英国では二十倍以上も高かった(OR=22.86)ことが分かりました。一方、日本の競走馬では、急性肺出血によって突然死するリスクが1/6以下であった(OR=0.16)というデータが示されました(米国のカリフォルニア州に比較して)。ただ、このような地域差が生じた要因については、明瞭には結論付けられていませんでした。

一般的に、馬の突然死の病因としては、大動脈破裂が多いという通説がありましたが、この論文では、突然死の病因のうち、大動脈破裂は1%以下(2/268頭)に過ぎませんでした。また、突然死の推定診断名としての心肺不全には、致死的不整脈や急性心筋疾患などの、心肺組織の形態的異常を伴わない病気(心臓の機能的異常であるため、剖検では明瞭な病的所見が無い)が占める割合が多かったと推測されています。

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