馬のクッシング病の経過評価について
馬の飼養管理 - 2023年02月27日 (月)

馬のクッシング病は、正式には下垂体中葉機能異常(PPID: Pituitary pars intermedia dysfunction)のことを指しており、ヒトや犬のクッシング病とは、発症機構が異なることが知られています。そして、近年では、獣医療の進歩に伴いウマの寿命も伸びていることから、高齢馬のクッシング病の診断、および、多毛症や慢性蹄葉炎への対処を要する事例も増えていると言われています。ここでは、馬のクッシング病に対する治療薬の効き目を判断することの重要性や、その方針についての知見を紹介します。
参考資料:
Stacy Oke. Manage PPID By Monitoring Treatment Response. The Horse, Topics, Diseases and Conditions, Horse Care: Sep30, 2022.
クッシング病の診断と治療
馬のクッシング病の診察では、まずPPIDの病態を診断する必要があります。現在、汎用されている馬のクッシング病の診断法としては、安静時の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の血中濃度を測定する手法と、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)による刺激試験(TRH投与の10分後にACTH濃度上昇の有無を検知する手法)が挙げられています。
そして、クッシング病の推定診断が下された馬に対しては、ドーパミン作動薬であるペルゴリドの経口投与が適応され、一般的なペルゴリドの投与量は2μg/kg体重(一日一回、経口投与)とされていますが(250μg/錠の製品で一日4錠)、不応性の症例では4〜5μg/kg体重まで増量することもあります。過去の文献では、ペルゴリドによるクッシング病の治療効果(多毛症等の症状の緩和)は、約75%の症例で認められることが報告されています。

英国の研究者であるジョー・アイルランド博士によると、馬の血中のACTH濃度は、品種やストレス、病気、疼痛などの様々な要素に影響を受けるため、これらの諸要素を考慮して、検査値を解釈することが大事だと言われています。また、それぞれの検査機関において、季節ごとの正常範囲を確立させておくことで、検査の信頼性を向上できることも知られています。
クッシング病の治療薬の効果を評価する
近年の報告では、ペルゴリドが投与された馬の75%以上において、クッシング病の症状が改善することが知られています。しかし、アイルランド博士によれば、馬のクッシング病に対するペルゴリド投与では、治療開始から一ヶ月後に再検査を行なうことが必要だと提唱されており、他の研究者も、治療開始の1〜3ヶ月後には、クッシング病の病態を再評価することを推奨しています。
その理由としては、クッシング病の症状を評価するのは、どうしても主観的になり易く、年間のある時期にしか変化が確認できない(換毛時期になって始めて多毛症の改善が見て取れるなど)ことが挙げられています。このため、罹患馬の見た目の症状に関わらず、下垂体中葉の機能そのものを再評価することが重要であり、この際には、安静時の血中ACTH濃度の測定、および、TRH刺激試験の何れかが実施されています。

具体的には、クッシング病の馬における安静時の血中ACTH濃度は、ペルゴリド投与の前よりも下がった症例は44〜74%に上ることが知られており、また、血中ACTH濃度が正常範囲内まで下降する症例も28〜74%にのぼることが報告されています。一方で、TRH刺激試験では、ペルゴリドの投与開始後も、試験に陽性を示し続ける症例が42%に達するものの、測定値自体が改善する症例は75%に及ぶことが報告されています。
加えて、馬におけるペルゴリドの副作用としては、食欲低下が最も頻発に見られますが、投薬を数日間だけ止めて再開すれば、大きな問題とならないケースが殆どです。また、他の潜在的な副作用としては、不安感、不整脈、低血圧、筋振戦などが含まれます。
クッシング病の経過評価について重要なこと
アイルランド博士によると、現時点では、ペルゴリドの投与開始から1〜3ヶ月後において、安静時の血中ACTH濃度を測定することが推奨されており、その後も、6〜12ヶ月の間隔で、追加の検査を繰り返すことが提唱されています。そうすることで、ペルゴリド投与が効いていることが確認でき、場合によっては、投与量増加の必要性を判断できることになります。

一方で、最初の検査で、ACTH濃度が無変化であったり、クッシング病の症例が無変化または悪化してしまう症例では、より短い間隔(1〜3ヶ月おき)で、下垂体中葉の機能を評価するが推奨されています。なお、ACTH無変化で症状悪化が認められる場合には、ペルゴリドの投与量を増やしますが、ACTH無変化で症状が無変化または良化していたり、症状が無変化または悪化していてもACTH濃度が下がっている時には、投与量は変えずに、1〜3ヶ月後に再検査するのが良いと考えられています。
また、アイルランド博士の話では、ペルゴリド投与によって罹患馬の生活の質(QOL)が向上したと述べる馬主が多く、これもクッシング病の治療薬の効き目を推しはかるときに重要な指標であると提唱されています。
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