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馬の文献:離断性骨軟骨炎(Foland et al. 1992)

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「馬の膝蓋大腿関節の離断性骨軟骨炎における関節鏡手術」
Foland JW, McIlwraith CW, Trotter GW. Arthroscopic surgery for osteochondritis dissecans of the femoropatellar joint of the horse. Equine Vet J. 1992 Nov;24(6):419-23.

この症例論文では、馬の後膝の離断性骨軟骨炎(OCD)における外科的治療の効能を評価するため、膝蓋大腿関節にOCD病変を生じて、関節鏡手術による骨片摘出や病巣掻爬が実施された161頭の症例馬(252箇所の関節)における、医療記録の回顧的解析が行なわれました。

結果としては、長期の経過追跡ができた症例のうち、意図した用途に使役されたのは64%(86/134頭)であり、これを用途別に見ても、競走馬では62%(49/79頭)、非競走馬では67%(37/55頭)となっており、両群で有意差はありませんでした。このため、馬の膝関節OCDに対しては、関節鏡によって中程度の予後が達成されることが示唆されました。この論文は、馬の獣医療に関節鏡が使われ始めた黎明期の臨床研究でしたが、比較的に良好な予後が示されており、侵襲性を抑えながら関節腔内の骨片を取り出したり、病巣掻爬を実施できるという関節鏡の利点が、治療成績に反映されたと推測されました。その反面、この論文で関節鏡が適応されたのは若齢症例が多いことを鑑みると、レース以外の用途に使役される壮年期の競技馬において、同程度の予後が期待されるかは不透明である、という警鐘が鳴らされています。

この論文では、OCD病変の大きさが予後に影響することが分かりました。具体的には、意図した用途に使役できた馬の割合は、2cm未満の病変では78%(29/37頭)に上ったのに対して、2〜4cmの病変では63%(35/56頭)、4cm以上では54%(22/41頭)に留まっていました。また、OCD病変の発生箇所も予後を左右する傾向が示されており、意図した用途に使役できた馬の割合は、病変が外側滑車のみの場合では66%(64/96頭)、内側滑車のみの場合では67%(6/9頭)であったのに対して、内外側の滑車の両方に病変があった場合には50%(8/16頭)と有意に低くなっていました。

このため、馬の膝蓋大腿関節のOCDに対しては、関節鏡で病変の場所や大きさを正確に把握することで(特に大きさは術前X線では過小評価されやすい)、術後の予後をある程度は的確に予測できるという利点が示唆されています。一方で、OCD病変が膝蓋骨や滑車間溝に及んでいるか、および、遊離骨片が存在するか否かは、術後の予後に有意には影響していませんでした。ただ、過去の文献では、OCD病変が膝蓋骨に生じると予後が芳しくないという知見もあり、この辺りは、より多症例での追加検討の要ありと言えます(膝蓋骨のOCDは、軽度の初期病態でないと競走/競技使役は出来ないという可能性もある等)。また、罹患した膝関節が、片方の後肢か、両方の後肢かの違いも、予後とは有意には相関していませんでした。

一方、膝蓋大腿関節のOCDへの関節鏡では、術後の予後が患馬の性別によって左右される傾向も認められました。具体的には、意図した用途に使役された馬の割合は、牝馬では59%(26/44頭)、牡馬では63%(42/67頭)であったのに対して、騸馬では78%(18/23頭)と顕著に高くなっていました。このデータは、騸馬の方が関節組織の治癒能力が高いことを示すものかもしれませんが、一方で、騸馬には繁殖転用の選択肢が無いため、よりアグレッシブに競走や競技への復帰を目指したという、馬主や飼養管理者からのバイアスが働いたのかもしれません。

この論文では、161頭の症例において、術前のX線検査と関節鏡検査の病変所見が比較されました。その結果、関節鏡下でのOCD病変の重篤度(病変の大きさや深さ)が、X線所見と一致していた症例は69%(111/161頭)でしたが、その一方で、術前のX線所見よりも、関節鏡所見の方が重篤であった症例が29%(46/161頭)に及んでいました。このため、馬の膝蓋大腿関節のOCDにおいては、X線画像ではOCD病態が過小評価されてしまうケースが三割近くに達することを考慮して、術前の画像所見のみで、関節鏡の治療効果を楽観的にクライアントに伝えないよう注意する必要があると言えます。加えて、関節鏡の術中には、関節全域を慎重に探索して、予後を悪化させる病変(関節軟骨、半月板、十字靭帯の損傷など)が存在しないかを確認することが重要だと考えられます(これらの病巣は、X線画像には写らない、または、軽傷に写ってしまうため)。

この論文では、膝蓋大腿関節のOCDへの関節鏡において、患馬の年齢によって術後の予後が左右される傾向が見られました。具体的には、意図した用途に使役された馬の割合は、年齢が一歳以下、二歳、三歳、四歳以上では、それぞれ、54%、73%、86%、58%となっており、三歳馬では他の年齢群よりも、有意に優れた治療成績が示されました。この理由は、明確には考察されていませんが、OCDは成長期整形疾患(DOD)であり、その多くが育成期に発覚することを考えると、三歳の時点まで不症候性に経過したOCDは、その殆どがサイズの小さい、又は軟骨深部に及ばない病変であったため、関節鏡治療が奏功する確率が高くなったのかもしれません。

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