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馬着に関する10個の疑問

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馬に馬着(ブランケット)を着せるときには、どんなタイプの馬着を、いつ着せるべきか?を悩む時がありますが、ここでは、馬着に関するよくある疑問について解説した記事を紹介します。

参考資料:
Alexandra Beckstett, The Horse Managing Editor. Horse Blanketing FAQs. The Horse, Topics, Warmup & Cool Down, Winter Care: Oct7, 2022.

注意:下記の記述は、北米で放牧飼いされている乗用の温血種の成馬に関する馬着管理の指針であるため、日本の飼養馬における品種、年齢、飼養形態によっては、異なった方針が必要であると考えられます。



疑問1:いつ馬着を着せるか?

馬に馬着を着せるときのコンセプトは、実はとてもシンプルで、馬が寒がっているときには馬着を着せ、寒がっていないときは着せる必要が無い、というのが原則です。勿論、寒がっているか否かを、馬自身が喋ってくれることはありませんが、いつどんな馬着を着せるかの判断は、決して難しい暗号を解くような作業ではない、と言われています。

一般的に、馬は寒さに強い動物であり、かなり低い気温でも健康に生存できる能力があります。また、夏毛や冬毛が抜け替わるタイミングでは、確かに体毛の量が減少しますが、馬の換毛は光依存性だけではなく(日照時間が短くなるのを感知して換毛する)、温度依存性であることが知られており、つまり、寒波の年などには、馬体は気温の変化を検知して、必要であれば、例年よりも早い時期に冬毛を蓄えるようになります。



疑問2:馬に馬着を着せる場合、どのくらいの厚みの馬着を選ぶべきか?

ミシガン州立大学のカレン・ウェイト博士は、馬に馬着を着せる大まかな基準を示しています。ウェイト博士によれば、馬が健康で、剃毛されておらず、ボディコンディションスコアが4以上(9段階中)あって、風雨を凌げる小屋にアクセスできる状況であれば、マイナス7℃を下回らない限りは、厚い生地の馬着は必要ないと述べています。

ただ、騎乗用に使役されている多くの馬は、バリカンによる剃毛や日々のブラシ掛けで、自然な状態よりも冬毛の量が少ないことが多いため、体温を維持するために馬着を着せることが、健康維持に有益であると考えられ、気温が4℃を下回れば薄馬着を着せ、マイナス1℃以下になれば厚馬着を着せる、という指針を提唱しています。



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疑問3:どれくらい寒いときに馬着を着せるべきか?

ウェイト博士によれば、気温によって、どの種類の馬着を着せるかがまとめられています(馬体の毛刈りの有無で分けられています)。

毛刈りしていない場合
気温10℃以上: 馬着は不要。
気温4〜10℃: 馬着は不要。
気温-1〜4℃: 薄馬着を着せる。
気温-7〜-1℃: 薄馬着または”中”馬着を着せる。
気温-12〜-7℃: “中”馬着または厚馬着を着せる。
気温-12 ℃未満: 厚馬着を着せる。

毛刈りをしている場合
気温10℃以上: 馬着は不要またはシート馬着のみ。
気温4〜10℃: 薄馬着またはシート馬着を着せる。
気温-1〜4℃: 薄馬着または“中”馬着を着せる。
気温-7〜-1℃: 厚馬着を着せる。
気温-12〜-7℃: 厚馬着にシート馬着やライナー馬着を重ね着させる。
気温-12 ℃未満: 厚馬着にシート馬着・ライナー馬着・ネックカバーを重ね着させる。



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疑問4:どんな馬着を選ぶべきか?

馬着の分類についての用語は、薄い・中程度・厚い馬着(Light-, mid-, heavy-weight blanket)に分けられますが、製造業者によって基準は多様ですので、可能な限り、実製品を触って確認することが推奨されます。

一方、馬着のサイズを決める際には、馬の体長を元に判断することが多いですが、この時には、正しく巻き尺を馬体に当てる必要があります。具体的には、胸前の正中線上で、首と体躯がつながる部位を体長の前端とし、尾根から約25cm下方の臀端(坐骨結節の部位)を体長の後端とします。この際、肩幅および胸郭幅が最大になる箇所に巻き尺を通すことで、体長の測定値に、馬体の厚みを正しく反映させることが重要です。



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疑問5:馬着が厚すぎないか?

馬に馬着を着せるときには、馬体が過度に暖まっていないか?という疑問も出てきます。もちろん、馬着の下で汗をかいていれば直ぐに分かりますが、発汗は必ずしも常に明瞭ではないかもしれめせんので、他の目安も考慮しましょう。通常、野外にいる馬は、日向に出ていって、日光で馬体を暖めようとするため、この行動の有無で、馬着が厚すぎないかを判断できることもあります。

また、冬は湿度が低いので、鬐甲や胸前から僅かに湯気がのぼっているのが視認できることもあり、この場合にも、馬体が暖まり過ぎていると推測できます。さらに、発汗が軽度であっても、汗が揮発するときには馬が震えることがありますので、その時点で馬着の下を触ってみて、汗が蒸発することによる震えなのか、馬が寒がっている震えなのかを見分けることが大切です。



疑問6:馬着を着せると冬毛が生えなくなる?

ホースマンがよく持つ疑問として、今年もし馬に馬着を着せると、来年の同時期に生えてくる冬毛が減ってしまうのでは?という点かもしれません。しかし、ウェイト博士によれば、これは心配には当たらず、たとえ馬に厚い馬着を着せても、冬毛が生えなくなったり、毛の量が減ったりすることはなく、馬体の保温に必要な換毛を行なうと言われています。このため、冬毛が少なくなるのを恐れて、敢えて薄い馬着を選ぶという古典的な経験則では、明確なメリットは得られないと述べています。



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疑問7:真冬に気候の異なる地域に馬を移動させる場合にはどうすれば良いか?

冬季の真っ只中に、温暖地から寒冷地へ、または、寒冷地から温暖地へと馬を移動させる事もあります。この場合には、もちろん前者のほうが馬への負担は大きく、いずれのケースでも、馬着によって馬体の順応をサポートしてあげることが求められます。

特に、真冬に温暖地から寒冷地に移動した馬は、十分な冬毛が蓄えられていない可能性が高いため、適宜な馬着を着せて、放牧地では風雨を凌ぐ小屋を与え、馬体の震えや体重減少を注意深く監視することが推奨されます。逆に、寒冷地から温暖地へと、真冬に馬を移動させる際には、冬毛が豊かであれば、厚い馬着は不要だと考えられますが、馬体は自然に順応する能力がありますので、その時点で毛刈りをする必要はありません。また、放牧地では、必要に応じて馬が日陰に入れる意味で、やはり小屋があるのが好ましいと言えます。



疑問8:冬に生まれた子馬には馬着を着せるべきか?

二月生まれの子馬に対して、馬着を着せるか否かは、飼養環境によって異なります。このため、冬季に出産があっただけで、慌てて子馬用の馬着を購入するのは勧められません。母馬と子馬が飼われている厩舎が、断熱材や敷料が十分で、風が吹き込まない環境であれば、馬着は必要ないかもしれません。

ただ、冬場に生まれた子馬において、体温の維持がうまく出来なくなり、馬着を着せる利点があるケースも多いと考えられます。一般的に、北方の寒冷地において、真冬に生まれた子馬には、たとえ舎飼いの時間が殆どで、屋外に放牧されるのが短時間であっても、馬着を着せておくのが良いと言われています。一方で、馬着が暑すぎて発汗してしまった時の弊害も、子馬のほうが大きいことから、成馬よりも頻繁に検温や健康観察をして、馬着の着せ替えを小まめに実施することが最も大切だと言えるでしょう。

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疑問9:高齢馬には馬着を着せるべきか?

馬は加齢に伴って、様々な生物学的な変化を生じますが、断熱材としての皮下脂肪が減少して、熱の産生源の一つである筋肉量も減るため、若齢馬よりも馬着による体温維持のサポートを要する度合いが大きいと言えます。

このため、ボディコンディションスコアが5未満の個体や、風雨に晒される場合には、より積極的に馬着を着せることが推奨されています。また、高齢馬の中には、体毛がフサフサになる個体も見られますが、この毛は長いだけで太いわけでは無いことに留意すべきだと提唱されています。



疑問10:どうすれば馬着ズレを防げるのか?

馬着ズレは、馬体の突出箇所(肩端や腰角など)が過剰な摩擦を受けて、脱毛や擦過傷を生じる状態を指します。これを予防するには、馬体にフィットした馬着を買うのが一番であり、正しく体長を測定するのが大切であり、必要に応じて装着の仕方も調整するようにします。

また、厚い馬着の内側に、薄手のライナー馬着や、肩部防護のための馬着(Shoulder protector)を着せるのも、馬着ズレを防ぐのに有益です。しかし、これも万能ではなく、馬着の下に手を入れてみて、肩の高さまでスムーズに手を滑り込ませることが出来なければ、馬着ズレを起こしてしまうリスクは残る、という警鐘が鳴らされています。

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馬に馬着を着せるときに重要なこと

ホースマンは、馬に馬着を着せてしまえば、そのあと放っておいて良いという訳ではなく、責任ある馬着の管理が求められます。具体的には、馬着が濡れていないかを監視し、汚れていたら交換して、問題が無いかを必ず毎日チェックすることが重要です。

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