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馬の文献:離断性骨軟骨炎(Laws et al. 1993)

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「スタンダードブレッドの下腿足根関節の離断性骨軟骨炎に対する保存療法および外科的治療における競走成績」
Laws EG, Richardson DW, Ross MW, Moyer W. Racing performance of Standardbreds after conservative and surgical treatment for tarsocrural osteochondrosis. Equine Vet J. 1993 May;25(3):199-202.

この症例論文では、スタンダードブレッドの離断性骨軟骨炎(OCD)における外科的療法の治療効果を検討するため、下腿足根関節の脛骨中間稜にOCD病変を生じた114頭における、保存療法(56頭)または関節鏡手術(58頭)のあとの競走成績の回顧的解析、および、456頭の対照馬との比較が行なわれました。

結果としては、生涯出走回数を比べてみると、対照馬では平均45回であったのに対して、OCD罹患馬では平均33回と有意に少ないことが分かりました。ただ、これを雌雄で別々に見てみると、メスの対照馬では平均32回なのに対して、メスのOCD罹患馬では平均14回と顕著に少なくなっていました。このため、OCDを発症したのが牝馬であった場合には、無理させずに早期に繁殖に転用するなどして、生涯の出走数が少なくなった可能性が考えられました。

この研究では、生涯獲得賞金を比べてみると、対照馬では平均31,733ドルであったのに対して、OCD罹患馬では平均45,893ドルと四割以上も多いことが分かりました。また、これを雌雄で別々に見てみると、オスの対照馬では平均34,884ドルなのに対して、オスのOCD罹患馬では平均62,385ドルと八割近くも多くなっていました。このため、OCDを発症した馬は、競走成績は健常馬と大差がなく、生涯賞金としては健常馬よりも稼ぐことも多いことが示唆されました。なお、生涯獲得賞金は両群間で有意差が無かったものの、賞金はどうしても正規分布せず、少数の実力馬が偏向することから、もともと統計学的な有意差が出にくいことを考慮して、今回のような研究結果を解釈するのが望ましいと言えます。

この研究では、OCD発症と獲得賞金の多さについて、その因果関係は明確には結論付けられていません。しかし、もともとOCDという病気は、遺伝的に成長が早い子馬において、骨格が成熟するのに不可欠な軟骨内骨化が追い付かなくなることで発症することから、OCD発症馬の方が、運動器の発達スピードや最終的な運動能力も高くなり、優れたレース成績を達成したという仮説が成り立ちます。その一方で、子馬のときにOCDが発見された際には、血統が低い個体はその時点で廃用となり、結局、OCDを発症しながらもデビューした馬を集めると、相対的に血統の高い個体の割合が多くなった、という可能性は否定できません。つまり、OCD発症と競走能力向上のあいだに、遺伝的な因果関係が存在したケースと、単にOCD発症を介して血統の選抜というバイアスが働いただけ、というケースの両方があり得ると考えられます。

この研究では、治療のタイプ別に、生涯出走回数を比べてみると、保存療法を受けたOCD罹患馬では平均41回であったのに対して、関節鏡手術を受けたOCD罹患馬では平均26回と顕著に低くなっていました。一方、治療のタイプ別に、生涯獲得賞金を比べてみると、保存療法を受けたOCD罹患馬では平均50,523ドルであったのに対して、関節鏡手術を受けたOCD罹患馬では平均41,423ドルと二割ほど少なくなっていました。つまり、OCDを発症した馬では、関節鏡を受けた個体ほど、出走数と獲得賞金が少なくなる傾向が認められましたが、いずれも統計的な有意差は無かったことが報告されています。

この研究では、外科的治療を受けた罹患馬ほど、出走数や賞金額が少なかった理由については、明確には結論付けられていませんでした。しかし、この論文は、90年代初頭のもので、関節鏡という医療技術の黎明期であったことを鑑みると、自然治癒するような軽症なOCDは、効能が未知数な関節鏡が実施されながった状況が推測されます。言い換えると、関節鏡を受けた個体は、OCD病態がより重篤で、しかも関節組織の変性が進行(DJD発症)してから手術適応となった可能性があります。事実、関節鏡を受けた症例の六割以上は両側性のOCDで、四割以上は手術時に既に跛行を呈していました。そう考えると、今回の研究で保存療法が選択された馬たちの中にも、早期に関節鏡手術を受けていれば、出走数や獲得賞金を更に向上できた症例がいた、という仮説が成り立つのかもしれません。

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