馬の病気:載距突起骨髄炎
馬の運動器病 - 2013年09月05日 (木)

載距突起骨髄炎(Osteomyelitis of sustentaculum tali)について。
載距突起は踵骨(Calcaneus)の内側面に台状に隆起した突起で、飛節腱鞘(Tarsal sheath)の内部を走行している深屈腱(Deep digital flexor tendon)の滑り運動の支点(Gliding fulcrum)として機能しています。載距突起に起こる細菌感染(Bacterial infection)は、蹴傷などによる穿孔性外傷(Penetrating wound)に起因する場合が殆どで、感染の拡大に伴って細菌性骨炎(Septic osteitis)や骨髄炎(Osteomyelitis)の病態を呈します。
載距突起骨髄炎の症状としては、重度~不負重性跛行(Severe to non-weight-bearing lameness)、飛節腱鞘の膨満(Tarsal sheath distension)、患部の熱感と圧痛(Heat and pain on palpation)などが見られます。飛節腱鞘の滑液検査(Synovial fluid analysis)では、白血球数の増加、好中球含有率の上昇、蛋白質濃度の増加などを示しますが、繊維素生成(Fibrin deposition)のため滑液吸引(Aspiration of synovial fluid)が困難な場合もあります。踵骨のレントゲン検査(Radiography)では、載距突起の骨溶解(Osteolysis)や骨棘形成(Osteophyte formation)などの所見が認められ、特に、屈曲位接線撮影像(Flexed tangential projection)(いわゆる踵骨スカイライン像)、および、背内底外斜位撮影像(Dorsomedial-to-plantarolateral projection)において病変が顕著に確認できる事が示唆されています。また、超音波検査(Ultrasonography)では、飛節腱鞘内の滑液貯留(Synovial fluid accumulation)、滑膜の肥厚化(Thickened synovial membrane)、腱鞘と深屈腱の癒着形成(Adhesion formation)、深屈腱の肥大化(Enlargement)等の異常所見が確認されます。
載距突起骨髄炎の治療では、全身性抗生物質療法(Systemic antibiotic therapy)と非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与に併行して、腱鞘鏡手術(Tenoscopy)による感染病巣の清掃(Debridement of infectious lesion)、壊死骨の除去(Necrotic bone resection)、載距突起表面の掻爬(Curettage)と平坦化、腱鞘の洗浄(Lavage)、癒着の切除(Adhesion removal)、抗生物質注入(Antibiotic infusion)などが施されます。この際には、感染組織検体を用いての細菌培養(Bacterial culture)と抗生物質感受性試験(Anti-microbial susceptibility test)によって、術後の使用薬剤を選択することが推奨されています。重篤な腱鞘感染が認められた症例では、抗生物質含有のポリメタクリル酸メチル(Antimicrobial-impregnated polymethylmethacrylate)を腱鞘内に充填する治療法も有効です。
載距突起骨髄炎の予後は良好~中程度で、約九割の馬が生存し、約六割の馬が競技および競走に復帰したことが報告されていますが、治癒率の向上のため、初期治療の段階での積極的病巣清掃(Aggressive debridement)によって、細菌感染の根治に努めることが重要である事が示唆されています。また、重度の跛行のため乗用使役が困難であると判断された症例では、救助療法(Salvage procedure)として、中足部における深屈腱切断術(Deep digital flexor tenotomy)や飛節腱鞘内での深屈腱切除術(Deep digital flexor tenectomy)によって、効果的な疼痛緩和(Effective pain release)が達成できることが報告されています。
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