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群飼いの馬は寝不足になる?

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一般的に、馬を群れで飼うことは、動物福祉の面では好ましいと考えられますが、家畜化された馬という動物にとっては、多頭数の馬たちと睡眠のためのスペースを共有することは、睡眠不足という別の問題を生み出すのかもしれません。

参考資料:
Christa Leste-Lasserre, MA. Horses Living in Groups Might Not Get Enough Sleep. The Horse, Topics, Behavior, Farm and Barn, Horse Care, Welfare and Industry: Oct30, 2022.

スウェーデンの動物生理学者であるリンダ・ケルバーグ博士によると、複数の馬が休息している時には、馬たちは10分おきに目を覚まして、お互いの座っている位置を移動しなければいけないのだそうです。また、休息エリアが狭い場合には、そうでない場合に比べて、実際に馬が睡眠を取っている時間が半分になることも分かってきています。

群飼いされている馬たちは、自由に動き回ることが可能である反面、社会的行動に影響される度合いも大きくなります。そして、そのような馬群の社会的行動は、睡眠パターンを乱している可能性があると、ケルバーグ博士は述べています。多くの馬にとって、睡眠は動物福祉の問題点であり、私たちは馬に出来る限り多くの睡眠時間を与えることが求められます。つまり、群飼いするという動物福祉の一面に捕らわれて、総括的な福祉が損なわれていないかを注視する必要があると言えそうです。



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馬の群飼いは、スウェーデンを始めとする欧州では一般的になってきていますが、そのような飼養形態が、馬の睡眠に与える影響については、あまり着目されていきませんでした。そこで、ケルバーグ博士の研究チームは、スウェーデン国立馬術センターで飼養されている3~17歳の騙馬12頭を用いて、以下の四つの飼養環境に十日間ずつ置いて、睡眠行動の傾向を調査しました。

飼養環境①:夜は馬房(10.59平方メートル)に入れて、日中は多頭数でパドックに放牧する。
飼養環境②:昼夜ともに狭いパドックに放牧する。一頭当たりの面積は7.99平方メートル。
飼養環境③:昼夜ともに中程度のパドックに放牧する。一頭当たりの面積は18.02平方メートル。
飼養環境④:昼夜ともに広いパドックに放牧する。一頭当たりの面積は27.87平方メートル。

結果としては、①~④のいずれの飼養環境でも、馬たちは10分おきに目覚めて、お互いに干渉していました。しかし、パドックの面積は、馬の睡眠パターンに有意な影響を与えており、休息エリアが狭いほど、馬たちは胸骨位または横臥位になっている時間が短くなるという現象が認められました。特に、飼養環境②では、馬たちの睡眠時間は最も短く、一日当たりの胸骨位になる時間は平均69分間に留まっており、飼養環境①での145分間よりも顕著に短時間となっていました。

また、休息エリアが狭い場合(飼養環境②)では、馬たちが横臥位になる時間は、一日当たり平均22分間に過ぎないことが示され、まったく横臥位にならない個体も見られました。一方、飼養環境③および④では、胸骨位置になる時間は、それぞれ平均130分間および132分間であり(両群間に有意差は無し)、一頭当たりの面積を③→④に増やす(約18→28平方メートル)という必要性は無いものと推測されました。

なお、馬たちが胸骨位置になる回数(一日当たり)を見てみると、馬房では1~6回、飼養環境③や④では2~6回であったのに対して、飼養環境②では0~5回となっていました。この研究に用いられた馬たちは、必ずしも全頭が相性が良い訳ではないとも述べられており、このため、長時間にわたって安眠するには、お互いの干渉を避けるような、十分な広さのパドックを要したと考察されています。



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ケルバーグ博士によれば、馬の睡眠パターンには、休息エリアの面積以外にも、敷料の深さも影響を与えうると考えられており、パドック放牧の際には、敷料の薄さによって、寝そべった馬の快適さが変動したと推測されています。今回の研究でも、敷料の無いエリアで胸骨位になる馬も観察されており、他の馬たちと干渉するのを好まない性格であったことが要因として挙げられています。

この研究では、馬の福祉を向上させるためには、単純に多頭数で群飼いすれば良い訳ではなく、十分に広い休息エリアを供給することで、馬たちがお互いに距離を取って、過剰に干渉しなくて済むようになり、パーソナルスペースを確保しながら、快適さと十分な睡眠時間を維持できることが示唆されています。一方で、この研究の限界点としては、馬が寝そべる回数が時間の長さのみを評価していて、睡眠の質や深さ、および、馬の行動学的指標の変化は定量されていない点が挙げられ、今後の研究での精査が求められると言えそうです。

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参考文献:
Linda Kjellberg, Hanna Sassner, Jenny Yngvesson. Horses’ resting behaviour in shelters of varying size compared with single boxes. Applied Animal Behaviour Science. 2022; 254: 105715.

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このエントリーのタグ: 飼養管理 動物福祉 行動学

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