馬の文献:離断性骨軟骨炎(Beard et al. 1994)
文献 - 2023年03月24日 (金)

「スタンダードブレッドとサラブレッドの下腿足根関節の骨軟骨炎における手術後の競走能力」
Beard WL, Bramlage LR, Schneider RK, Embertson RM. Postoperative racing performance in standardbreds and thoroughbreds with osteochondrosis of the tarsocrural joint: 109 cases (1984-1990). J Am Vet Med Assoc. 1994 May 15;204(10):1655-9.
この症例論文では、飛節の骨軟骨炎における外科的療法の治療効果を検証するため、1984〜1990年にかけて、コロラド州立大学の獣医病院にて、下腿足根関節の骨軟骨炎に対する外科的治療(関節鏡による骨片除去と病巣掻爬)を受けた計109頭のスタンダードブレッドとサラブレッドの若齢馬(二歳齢)における、医療記録の回顧的解析、および、異母兄弟の馬(対照馬)との競走成績の比較が行なわれました。
結果としては、スタンダードブレッドの症例馬(45頭)を見ると、関節鏡での治療後、二歳および三歳までに初出走を果たしたのは、それぞれ22%及び43%となっており(対照馬では42%及び50%)、いずれの時点でも、対照馬よりも低くなっていました。また、二歳および三歳までの獲得賞金は、いずれの時点でも、対照馬よりも症例馬のほうが少なくなっていました。更に、二歳の時点での出走率は、骨軟骨炎の病変が複数であった症例馬の方が、有意に低くなっていました。
一方で、サラブレッドの症例馬(64頭)を見ると、関節鏡での治療後、二歳および三歳までに初出走を果たしたのは、それぞれ43%及び78%となっており(対照馬では48%及び73%)、三歳の時点では、対照馬と有意差はありませんでした。しかし、獲得賞金は、二歳と三歳のいずれの時点でも、症例馬のほうが少なくなっていました。なお、二歳または三歳の時点での出走率と、骨軟骨炎の病変の数には、有意な相関は認められませんでした。
以上の結果から、スタンダードブレッドとサラブレッドの両品種において、下腿足根関節の骨軟骨炎に対する外科的治療を受けた個体では、二歳及び三歳までの出走率の低下や獲得賞金の減少に繋がるものの、サラブレッド競走馬では、三歳までには正常馬と同等の出走率が期待できることが示唆されました。これらの要因としては、骨軟骨炎による骨格成長の弊害が、競走能力に悪影響を及ぼしたと推測されると同時に、馬主や調教師が病歴や手術歴を考慮して、デビュー時期を遅らせたり、グレードの低いレースへの出走を選択したというバイアスが働いた可能性があると考えられました。
この研究では、サンプル数の少なさから、統計的な検出力は0.53〜0.57であることが報告されています。通常の科学論文における統計解析では、αエラーを5%、βエラーを20%に設定することから、P値が0.05以下を有意域、検出力が0.8以上(1マイナスβエラー)を充分と判断することが一般的です。このため、この研究では、病変の数と競走能力の因果関係を評価する場合等において、より多くの症例データを含めた追加検討の要あり、という考察がなされています。
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