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人工知能に馬の獣医療はできるか?

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人工知能(AI: Artificial intelligence)とは、計算とコンピュータという道具を用いて「知能」を生み出すという計算機科学の一分野を指しており、人間の知的能力をコンピュータ上で実現することが可能だと言われています。人工知能の実用例としては、翻訳などの言語処理、専門家の判断を模倣するエキスパートシステム、写真や動画の特定パターンを検出する画像認識などが挙げられます。ここでは、人工知能と馬の獣医療に関する記事を紹介します。

参考資料:
Lisa Slade. All You Need To Know About Horse Care, Courtesy Of ChatGPT. The Chronicle of the Horse (America’s most trusted source for horse news and equestrian lifestyle since 1937). Horse Care: Feb15, 2023.

近年では、英訳や和訳における意訳の幅が広がり、より自然な言い回しが可能となったり、特定の作曲家のスタイルを真似て自動作曲させたり、将棋や囲碁で人工知能がプロを負かしてしまう、といった事象が生まれてきました。また、農業の分野では、人工知能に収穫をさせることで出荷量を最適に調整したり、病害虫の発生を解析して農薬散布を最小限に抑える、などが可能になってきています。

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さらに、ヒトの医療分野では、人工知能がレントゲンやMRI画像の異常所見を検知したり、カルテの電子化に伴って、カルテ内容や問診結果から有病が疑われる個人を抽出する、などが試みられています。加えて、馬の獣医療においても、人工知能によって病気を診断するという新たな試みもあり、例えば、馬の目を写真撮影して、それを人工知能で画像解析することで、月盲(回帰性ブドウ膜炎)が発症しているか否かを、96%以上の信頼性で判断するソフトも公開されています(下記リンク)。

関連記事:馬の月盲をスマホアプリで診断?



オンライン人工知能の普及

昨年の11月には、ChatGPT(チャットジーピーティー、Generative Pre-trained Transformer)という人工知能のオンラインボットが公開され、世界的な注目を集めています。ChatGPTは、インターネット上の情報から知識を得た人工知能が、会話形式で質問に答えるソフトで、幅広い分野の質問に詳細に答えられる、という点が特徴的です。OpenAIのサイトからアクセスでき(下記リンク)、基本的には、誰でも無料で使用可能となっています。

参考資料:ChatGPT(チャットジーピーディー):OpenAIサイト

ChatGPTでは、単語を入力して情報源のサイトが示されるという、これまでの検索エンジンと異なり、知りたい内容を質問形式で文章にて入力することで、その答えが文章として返されてくる、という流れになっています。海外では、大学の卒業テストで合格レベルに到達したり、医師の国家試験に合格するなどの実績が示されています。

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一方で、馬の獣医師にとっても、飼養管理に関する疑問や、病気の対処法や治療法などを、ChatGPTに問い合わせることが出来るようになっています。その結果、一見、自然に見える回答が得られることが分かってきました。ただ、ヒトの医療と異なり、馬の獣医療においては、馬自身が自らの体調などを話してくれる訳ではないため、観察者の認識やバイアスによって、本当に適切な対処方針が導き出されない、という危険性もあると提唱されています。



人工知能による獣医療に関わる判断

例えば、ChatGPTに対して、疝痛馬にどのような対処を取れば良いか?という質問を投げかけてみたところ、以下のように、かなり具体的で、一見すると妥当な回答が返されることが分かります。しかし、内容のなかには、重要性や優先度に疑問符がつくものが含まれており、特に、日本語で質問したときの方が、その傾向が顕著であるようにも見受けられます。

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さらに、日本における獣医師国家試験の問題のうち、馬の獣医学に関する幾つかの設問(写真読解が含まれないもの)をChatGPTに出してみたところ、その多くに対して誤った回答が示されました。つまり、人工知能が学習に用いているデータの量や、データをどう解釈するかの仕様については、まだ改善の余地が多分にあると推測されています。

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獣医師の仕事は人工知能に奪われるか?

以上のように、現時点では、人工知能の判断能力における信頼性は不十分であり、馬の飼養管理や病気の診断・治療を委ねることは出来ないと考えられます。しかし、今後、人工知能の学習が更に進んでいけば、これらも向上していくと推測できます。その結果、数値化できる身体所見(TPRや血液検査など)、および、画像診断のイメージ解析から、病的な状態を検知したり、健常性から逸脱しそうな微妙な変化を、見落としなく的確に発見することが出来るようになるかもしれません。

ただ、馬の獣医師の仕事が、人工知能によって奪われることは無いと推測されます。2015年に野村総合研究所が発表した見通しでも、獣医師は「人工知能やロボット等による代替可能性が低い 100 種の職業(野村総合研究所)」に含まれています。この理由としては、動物の病気を診断するためには、動物の目つきや表情、仕草や動作、行動様式、跛行などの微妙な動きの変化など、数値化できないアナログ的な要素を、総括的に判断する必要があることが挙げられます。

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また、手術などの複雑かつ臨機応変な判断を多数回求められる治療法では、人工知能の機械的な判断システムは適合できないことも一要因です。さらに、獣医療での治療判断においては、法的な責任を人工知能に転嫁できないことに加えて、安楽殺を含む倫理的な判断を下すこともあり、その際には、動物の物理的な状態だけでなく、クライアントの経済的、心理的、社会的な側面も考慮して、両者のウェルフェアを最大限にする選択肢も考えることになります。動物の命に対する価値観や、一般的な死生観も絡んでくるかもしれません。そう考えると、やはり獣医療に関わる業務を、人工知能へ完全に代替させるのは困難であると言えます。



獣医療への人工知能の活用で重要なこと

上述のように、人工知能が広く普及しても、獣医師の業務は安泰だと考えられます。しかし、たとえ獣医療の仕事が無くならないにしても、その手法は変貌する可能性は否定できませんし、人工知能を使いこなして、より高度なケアを提供できる職業を目指していくべきだと言えます。例えば、デジタル的な検査所見(身体検査、血液検査、画像診断)を解釈するときには、過去の膨大な知見やデータと現症を比較するという、人工知能の得意分野を活かして、医療の支援ツールとして利用していくのが望ましいと言えます。

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一方で、人工知能で代替できない獣医療の側面を知り、そのための役立つスキルを高めることも重要だと考えられます。疝痛を例にあげれば、心拍数やエコー画像、Hct値、乳酸値などを活用しながらも、馬の表情や所作などにも注意を払って、どの程度の痛みをどんな様式で感じているのかを見極めることで、診断の一助になります。また、直検での消化管の触感、胃液の臭い、脱水の主観的指標(CRTや皮膚つまみ試験)なども、人工知能では分からない診断基準になり得ますので、これらの指標を正しく取得及び解釈できるよう、日々、そのスキルを鍛錬しておくのが大切だと言えます。

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年齢: アラフィフ
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