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馬の文献:離断性骨軟骨炎(Doyle and White. 2000)

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「馬の肩関節の軽度骨軟骨症病変における関節鏡での診断と予後:1996~1999年の15症例」
Doyle PS, White NA 2nd. Diagnostic findings and prognosis following arthroscopic treatment of subtle osteochondral lesions in the shoulder joint of horses: 15 cases (1996-1999). J Am Vet Med Assoc. 2000 Dec 15;217(12):1878-82.

この症例論文では、馬の肩関節の骨軟骨症に対する、外科的治療法の効能を評価するため、1996~1999年にかけて、メリーランド大学の獣医病院において、肩関節の軽度な骨軟骨病変に対する関節鏡手術が実施された15頭の症例馬における、医療記録の回顧的解析や予後の評価が行なわれました。

結果としては、肩関節の骨軟骨症による跛行症状は、グレード1~4と多様でしたが、症例馬の年齢(中央値)は4.7歳となっていました(範囲1~11歳)。そして、肩関節の骨軟骨症に対する関節鏡手術によって、80%の症例(12/15頭)が術前のパフォーマンスまで回復しており、残りの三頭のうち、一頭は軽度騎乗に復帰、一頭は難治性跛行を示し、最後の一頭は慢性跛行のため廃用となっていました。このため、若齢~壮齢期の馬における肩関節の骨軟骨症では、関節鏡を介した外科的治療によって、比較的に良好な予後が期待され、競技・競走能力の回復を達成できるケースが多いことが示唆されました。なお、この論文での関節鏡の術式では、関節軟骨の厚みの全域に及ばない病変は、軟骨下骨に達しないように掻把された一方で、軟骨全層に及ぶ病変は、正常な軟骨下骨露出する深部まで掻把が実施されました。

この論文では、肩関節の骨軟骨症における術前のX線検査では、関節窩の骨硬化症や限局性骨融解、小さな関節窩のボーンシスト、上腕骨頭の形状変化など、軽度の異常所見が見られたのみでしたが、関節鏡の術中所見では、術前には認識されていなかった病変が確認されたことが報告されています。具体的には、関節窩の軟骨裂傷、関節窩のボーンシスト、上腕骨頭のボーンシスト、上腕骨頭の軟骨細線維化、関節軟骨の細片化、上腕骨頭の非変位性骨折等が含まれました。このため、肩関節の骨軟骨症では、X線検査は病態を過小評価してしまうため、内診によって正確な病変把握および予後判定を行なう意味でも、関節鏡手術が有用であることが示唆されました。

この論文では、肩関節の骨軟骨症における関節痛は、屈曲試験や伸展試験では明瞭に限局化できない症例が多かったものの、肩関節の診断麻酔が実施された殆どの症例において(9/10頭)、歩様の改善が確認されました。一方、八割の症例(12/15頭)において、狭踏姿勢および急な蹄壁角度が認められています。なお、シンチグラフィー検査が行なわれた症例では、その67%(4/6頭)において、肩関節部位の異常所見が視認可能でした。このため、肩関節の骨軟骨症では、X線検査で明確な病変が確認できないケースが多いことを鑑みて、診断麻酔などの他の手法を用いて、疼痛が肩関節に存在することを確認することの重要性が再確認されたと言えます(日本ではシンチグラフィー実施は困難)。

この論文では、関節鏡下で確認された病変の発生素因としては、四歳齢未満の馬では、骨折または骨軟骨症であると推測されている一方で、四歳以上の馬では、骨軟骨症の病変が軟骨変性へと進行したか、外傷性に関節軟骨の損傷を生じたと予測されています。いずれの場合にも、変性関節疾患(DJD)の続発を示唆する関節軟骨の細線維化や骨棘形成、軟骨下骨の硬化症が認められたことから、術前の画像診断で重度病巣が視認されない場合でも、積極的な関節鏡手術による早期治療を実施することで、DJD続発を抑えて、競技馬/競走馬としての予後を向上できると考察されています。

Photo courtesy of Butler JA, Colles CM, Dyson SJ, Kold SE, Poulos PW. Clinical Radiology of the Horse. Wiley-Blackwell; 4th edition (March 13, 2017)

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