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光学屈折計を用いた母馬の初乳の品質検査

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一般的に、生まれたての新生子馬は、病原体への抵抗力が低いため、出産直後に母馬が分泌する初乳に含まれている移行免疫抗体を摂取することで、感染への防御能を獲得することが知られています。しかし、母馬の体調や予防接種の状態によっては、初乳に含有される免疫グロブリンG(IgG)の量が不足していて、子馬の感染症を引き起こす素因になってしまいます。このため、初乳中のIgG濃度を測定して、移行免疫抗体の指標とすることで、初乳のクォリティを客観的に評価することが重要とされています。

通常、初乳のクォリティ評価には、時間とコストが掛かります。このため、光学屈折計を用いてIgG濃度を予測するという試みがあります。下記の研究では、81組の母馬と新生子馬から、初乳と血液サンプルを採取して、それらのIgG濃度を、放射状免疫拡散アッセイを用いて測定した後、光学屈折計またはデジタル屈折計を用いて、溶解している固形物濃度(パーセント濃度)が測定されました。そして、両手法間での相関係数を算出すると同時に、低品質の初乳(IgG濃度が60g/L以下)の検知が試みられ、ROC曲線下面積(AUC)の算出による鑑別能の評価が行なわれました。

参考文献:
Rampacci E, Mazzola K, Beccati F, Passamonti F. Diagnostic characteristics of refractometry cut-off points for the estimation of immunoglobulin G concentration in mare colostrum. Equine Vet J. 2023 Jan;55(1):102-110.

結果としては、低品質の初乳を光学屈折計で鑑別する場合、固形物濃度を23.9%以下とするのが最善のカットオフ値であることが示され、この場合、93.3%の感度と81.8%の特異度が達成されました。そして、低品質の初乳を鑑別する際には、陽性的中率は53.8%でしたが、陰性的中率は98.2%に達していました。なお、低品質の基準を厳格化すると(IgG濃度が50g/L以下)、光学屈折計での鑑別能も少し低下しており、感度(88.9%)、特異度(75%)、陽性的中率(30.8%)、陰性的中率(98.2%)は何れも低値となっていました。

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このため、前述のカットオフ値(固形物濃度:23.9%以下)を用いると、光学屈折計によって低品質の初乳を、繁殖の現場で迅速に鑑別できるというデータが示されました。勿論、光学屈折計で低品質が疑われれば、検査機関に依頼して、IgG濃度を精密測定してもらうことが推奨されます。つまり、現場サイドのスクリーニング検査としては、陰性的中率の高さが重要であるため、短時間で実施できる光学屈折計を使うだけで、移行免疫抗体の濃度が低い可能性のある初乳を網羅的に探知できる点で、非常に有用性が高いと考えられます(陽性的中率が低くても取り越し苦労が増えるだけだが、陰性的中率が低いと低品質初乳を見逃してしまうリスクが増えるため)。

この研究では、81頭の子馬のうち、移行免疫不全(血清IgGが4g/L未満)であったのは4頭、部分的な移行免疫不全(血清IgGが4~8g/L)であったのは10頭でした(正常値は血清IgGが8g/L以上)。しかし、移行免疫の不全症と診断された子馬のうち、飲んでいた初乳中のIgG濃度が低値(60g/L以下)であったのは64%(9/14頭)に過ぎないことが示されました。つまり、初乳のIgG濃度が正常値でも、子馬自身の飲乳量が不足していたり、消化管での吸収不全が起きると、子馬に十分な移行免疫が付与されないケースも起こり得ると推測されます。このため、初乳だけを調べるのではなく、子馬の健康状態もシッカリ監視して、必要であれば、子馬の血中IgG濃度の検査も併用することの重要性が再確認されたと言えます。

この研究では、手持ちで使う光学屈折計よりも、デジタル屈折計のほうが優れた鑑別能を示しており、上述の低品質初乳の基準(IgG濃度が60g/L以下)においては、感度(93.3%)、特異度(87.9%)、陽性的中率(63.6%)、陰性的中率(98.3%)は何れも高値となっていました。この場合、固形物濃度を23.75%以下とするのが、デジタル屈折計における最善のカットオフ値であったことが報告されています。

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このエントリーのタグ: 子馬 繁殖学 飼養管理 疾病予防

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