馬の文献:離断性骨軟骨炎(Scott et al. 2004)
文献 - 2023年04月05日 (水)

「僅かなX線所見しかない馬の大腿骨内顆の骨軟骨症病巣における関節鏡所見:1995〜2002年の15症例」
Scott GS, Crawford WH, Colahan PT. Arthroscopic findings in horses with subtle radiographic evidence of osteochondral lesions of the medial femoral condyle: 15 cases (1995-2002). J Am Vet Med Assoc. 2004 Jun 1;224(11):1821-6.
この症例論文では、馬の膝関節の骨軟骨症における診断法を確立させるため、1995〜2002年にかけて、大腿骨の内顆に僅かなX線的異常のみを示した15頭の症例馬(28関節)における、関節鏡手術での内診所見の回顧的調査が行なわれました。
結果としては、術前のX線検査で、僅かな異常所見が確認されたのは24関節で、これには、内顆の平坦化のみが見られたのが20関節で、最小限の軟骨下骨吸収が認められたのが4関節でした。しかし、これらのうち、関節鏡での内診において、X線では認められなかった関節軟骨の異常が発見されたのは92%(22/24関節)に及びました。
このため、馬の膝関節の骨軟骨症では、たとえ術前の画像診断における異常所見が軽度であっても、関節軟骨には臨床的に有意な病変が存在している可能性が高いことが示唆されました。このため、そのような症例に対しては、積極的な関節鏡手術によって、病巣の早期治療を施すと同時に、病変の大きさや深さを詳細に内診することで、正確な予後判定を行なうことが重要であると結論付けられています。
この研究では、四頭の症例において、左右両後肢の膝関節に対する関節鏡手術が実施されました。その結果、半数の症例(2/4関節)において、罹患肢ではないほうの後肢でも、膝関節内に関節鏡下での病巣が発見されました。この四頭は、跛行も片側性で、術前における対側肢のX線でも、異常所見は認められていませんでした。このため、膝関節の骨軟骨症は、両側性の疾患である可能性を考慮して、対側肢の膝関節も関節鏡で内診することが推奨される、という考察がなされています(たとえ跛行は片側性であっても)。
この研究では、大腿骨の内顆での軟骨病変に対して、焼烙による関節形成術、または、治療的な微細骨折処置が実施されました。そして、長期経過を見ると、限局性病巣を呈した馬の78%(7/9頭)、広範性病巣を呈した33%(2/6頭)では、正常な歩様に回復して、関節膨満も認められないことが報告されています。一方で、内側半月板の損傷を併発していた症例では、全頭で慢性的な跛行が認められ、病態悪化で廃用となったケースも二頭ありました。このため、関節鏡下で半月板の病態を精査することで、正確な予後判定ができると推測されています。
この研究では、治療対象となった28関節のうち、関節包の膨満が軽度または無しの場合が半数以上(16/28関節)に及んでいました。一方、内側の大腿脛骨関節の診断麻酔が実施された症例のうち、歩様改善が認められたのは八割以上(5/6関節)に達していました。このため、関節包膨満は、それほど有用な診断指標ではなく、可能な限り、診断麻酔による疼痛限局化を試みることが推奨されています。また、術前にエコー検査が行なわれた症例はいませんでしたが、エコー画像では、関節軟骨や半月板の病巣を術前診断できたり、側副靭帯や膝蓋靭帯など、関節鏡では見にくい構造物を評価できる利点が指摘されています。なお、後肢の屈曲試験への多様で、特異性は低かったことも報告されています。
この研究では、15頭中の1頭において、術前に複数回の関節注射が実施されており(トリアムシノロンとヒアルロン酸)、当該関節では、軟骨下骨の病変を伴わない広範性軟骨病巣が認められました。このため、頻回の関節注射療法を要する症例では、早いタイミングで、関節鏡手術による病巣掻爬を行なうことで、限局性から広範性病変への病態進行を抑えられる可能性があると考えられました。
Photo courtesy of J Am Vet Med Assoc. 2004 Jun 1;224(11):1821-6.
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