高齢馬の春の安全管理6選
馬の飼養管理 - 2023年04月10日 (月)

春の兆しが跳んでいる(Spring has sprung)という季節ですが、高齢馬が健康で幸せな一年を送るためには、春はとても大事なシーズンだと言えます。ここでは、そのような高齢馬における春季の安全管理(Spring Safeguards)に関して、重要な事項6選を解説した記事を紹介します。
参考資料:
University of Kentucky College of Agriculture, Food, and Environment. Six Simple Spring Safeguards for Senior Horses: Ensure your senior horse or pony is prepared for a healthy and happy year ahead. The Horse, Article, Basic Care, Deworming & Internal Parasites, Horse Care, Older Horse Care Concerns, Vaccinations, Vital Signs & Physical Exam, Welfare and Industry: Mar3, 2023.
安全管理1:正常を知っておく。
高齢馬の体温、心拍数、呼吸数を測定して、それらを記録しておきましょう。個々の馬の身体指標の規定値を知っておくことで、異常が起きたときに、それを素早く認識できますし、病気が発生してしまった場合にも、迅速に治療を施すことが可能になります。
参考として、成馬の身体指標の正常値は下記のとおりです。
体温の正常値: 37.2~38.3℃ (99~101℉)
心拍数の正常値: 28~44回/分
呼吸数の正常値: 10~24回/分
これらの正常値は、各馬によって個体差がありますし、高齢馬では既知の正常範囲から外れている場合もあります。もし、身体指標を測定に関して疑問があれば、掛かり付けの獣医師に相談するようにしましょう。

安全管理2:健康診断の予定を立てましょう。
春季における高齢馬の安全管理として、かかり付けの獣医師に健康診断をしてもらうことも大切であり、これには、全身の健康状態のチェックに加えて、ボディコンディションスコア、歯科検診、歩様検査などが含まれます。これらの検査を通して、高齢馬がうまく冬を乗り越えたのか、そして、来たる夏を健康に乗り切るのに、何か必要なケアが無いかを確認することが出来ます。
また、特に高齢馬においては、代謝系機能に関わる疾患を診断することも重要となります。これには、メタボリック症候群、インスリン調整不全、下垂体中葉機能異常(いわゆるクッシング病)などが含まれます。いずれも、高齢馬に好発する病気であり、春季の牧草を摂食することで病態進行してしまうことが懸念されます。健康診断の結果によっては、血液検査、尿検査、ホルモン測定等を実施して、これらの疾患の有無や悪化の度合いを評価することが推奨されることもあります。

安全管理3:春の予防接種を受けましょう。
近年の研究では、ヒトの高齢者と同様に、高齢馬においても、加齢に伴って免疫機能が低下することが分かってきています(免疫老化現象と呼ばれています)。このため、高齢馬は様々な感染症への抵抗力が落ちてくる事になりますので、定期的な予防接種でそれを補完することが大切になってきます。
原則として、全ての馬に対して、破傷風、馬インフルエンザ、日本脳炎という三種類の予防接種を受けさせることが必須とされています。また、地域性や使役用途、諸感染症の発生状況に応じて、ゲタウイルス感染症および馬鼻肺炎の予防接種が推奨されることもあります。
(なお、上記リンクの記事は米国のものであるため、全頭接種として、破傷風、狂犬病、東部/西部馬脳炎、西ナイル熱があり、選択接種としては、ボツリズム症、馬インフル、ポトマック熱、腺疫が挙げられています。)

安全管理4:駆虫も忘れず行ないましょう。
一般的に、高齢馬は、寄生虫感染への抵抗力も低く、糞便中の寄生虫卵数(FEC: Fecal egg count)が高値になり易いことが知られています。このため、春季には高齢馬への駆虫剤投与を滞りなくなく実施すると同時に、必要に応じて、FEC検査も併せて行なうのも有益です。
また、寄生虫感染が懸念される個体において、駆虫前と駆虫2週間後にFEC検査を行なうことが推奨されています。そうすることで、駆虫処置の効果を確認できると同時に、駆虫剤に耐性を持っている寄生虫の有無を評価することも可能となるからです。

安全管理5:毛刈りすることを検討しましょう。
高齢馬の中でも、特にクッシング病を発症、または発症徴候のある個体では、体毛が長く厚くなり易いことが知られており、これは、内科療法でも完治しにくいと言われています。また、一般的に、高齢馬は若齢馬よりも、体温の調節機能も下がっているとも言われています。
このため、春季には毛刈りを行ない、冬毛を適宜に取り除くことで、体温調節を容易にすることが出来ます。勿論、充分なグルーミングを毎日行なって、用手で冬毛が抜け落ちるよう計らうことで、毛刈りは不要になることもあります。

安全管理6:トレーニング再開は緩やかに。
高齢馬が冬の休養期間を終えて、競技シーズンに向けてトレーニングしていく際には、運動の頻度や強度を緩やかに増やしていくことが大切です。研究者によれば、若齢馬よりも高齢馬のほうが、馬体のフィットネスや運動能力を回復させるのに、長い時間が掛かることが示されており、強運動にアジャストするために充分な期間を費やすことが推奨されています。
ただ、高齢馬を運動させること自体は、健康管理のために有用です。適切な活動量を維持することは、馬体の筋肉量を保って基礎代謝を維持するのに有益ですし、食欲や飲水を維持して消化器疾患の予防に寄与します。更に、高齢馬を精神的にアクティブに保つことで、悪癖および脳神経機能低下を防ぐことにも繋がるからです(馬にも加齢誘発性の痴呆や異常行動は起こりうるため)。

高齢馬の飼養管理に関する更に詳細な情報は、ケンタッキー大学のグラック馬研究所にある高齢馬リサーチセンター(下記リンク)から提供されていますので、ご参照してみて下さい。
参考リンク:
University of Kentucky (UK), Gluck Equine Research Center, UK Aged Horse Research Center.
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