馬の文献:離断性骨軟骨炎(Nixon et al. 2004)
文献 - 2023年04月14日 (金)

「ポリジオキサノン製の吸収性ピンを用いた離断性骨軟骨炎の病変の関節鏡的再固定法」
Nixon AJ, Fortier LA, Goodrich LR, Ducharme NG. Arthroscopic reattachment of osteochondritis dissecans lesions using resorbable polydioxanone pins. Equine Vet J. 2004 Jul;36(5):376-83.
この症例論文では、馬の離断性骨軟骨炎(OCD)に対する外科的治療の効能を評価するため、1985〜2002年にかけて、米国のコーネル大学の獣医病院において、12頭のOCD罹患馬の関節軟骨を、吸収性ピンにて関節鏡的に再固定させる治療法(Arthroscopic reattachment)が試みられました。
この研究の術式では、関節軟骨の剥離病変を確認したあと、関節面に垂直に穿孔できる部位に器具ポータルが設けられ、1.3mm径のKワイヤーを用いて軟骨下骨に達するドリル穿孔が施されました。その後、ポリジオキサノン製の吸収性ピン(1.3mm径、20〜40mm長)によって、剥離軟骨片が深部骨組織へと再固定されました。ピンは10mm間隔で挿入され、軟骨片のサイズに応じて2〜10本が設置されました。なお、治療対象となったOCDの発症部位は、膝関節が9頭、球節が2頭、飛節が1頭となっていました。
結果としては、12頭の症例馬のうち、OCDと関連のない理由で廃用となった一頭を除くと、関節軟骨の再固定を受けた馬のうち、正常歩様を回復して運動復帰したのは82%(9/11頭)にのぼり、残りの二頭も正常歩様に回復して、論文執筆時には調教中であったことが報告されています。このうち、殆どの症例において、術後の6〜8週間という短期間で、健常歩様への回復が見られました。また、施術された16関節のうち、X線画像上でOCD病変の消失が確認されたのは88%(14/16関節)に及んでおり、残りの2関節では、3mm及び5mmの石灰化フラップが認められました。
以上の結果から、馬のOCD病変のうち、サイズの大きな軟骨病変に対しては、吸収性ピンを用いた関節鏡的な再固定法によって、良好な病巣の治癒と、健常歩様への回復が達成され、運動能力の完治が期待できることが示唆されました。関節軟骨の再固定における利点としては、関節面の連続性を維持できること、粘弾性を持つ硝子軟骨組織を保存できること、および、掻爬箇所の軟骨下骨の露出を回避できるため、向かい合う関節面への刺激や損傷を最小限に抑えられること、などが挙げられています。
この論文では、12頭の症例馬のうち、OCDと関連のない理由で廃用となった一頭(腱裂傷事故)において、施術箇所の病理組織検査が実施されました(術後8週間目)。その結果、再固定された軟骨の深部骨組織には、複数の裂け目が生じていましたが、その内部は線維性脈管構造物で充填されて、軟骨と骨との再結合が達成されていました。そして、骨内に挿入されたピンは、線維性脈管で覆われながら埋没されており、また、軟骨内にあるピンも、その周囲で軟骨と深部骨の結合が見られ、平坦な関節面が再構築されていたことが報告されています。
この論文で実施された関節軟骨の再固定法では、40mm長の吸収性ピン(100ドル/本)が使用されましたが、殆どの箇所では、剥離した軟骨が薄かったため、半分に切った20mm長のピンでの固定が可能でした。このため、幅が5cmに及ぶようなサイズの大きな剥離軟骨片に対しても、6〜10本でのピンによる再固定が施され、インプラント費用は300〜500ドルに抑えられたことが報告されています。この手術コストのプラス分は、治療成功率の向上および休養期間の短縮度合いを鑑みると、充分に費用対効果に見合うと推測されています。
Photo courtesy of Equine Vet J. 2004 Jul;36(5):376-83.
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