舟状骨のX線では蹄尖挙上より後踏肢勢
話題 - 2023年04月15日 (土)

乗用馬に好発するナビキュラー症候群では、舟状骨のX線検査が有用です。特に、蹄の後ろ側から舟状骨を見下ろすように撮影する方法(PPPDO: Palmaroproximal-palmarodistal oblique)では、舟状骨と蹄骨が重なってしまうのを避けられるため、骨髄の硬化症、矢状綾の扁平化、屈腱面の不整などが評価できるという利点があります。
ここでは、馬の前肢の舟状骨におけるPPPDO撮影の手法を検討した知見を紹介します。この研究では、馬の屠体肢26本を用いて、様々な角度(地面に対して25〜60度を5度刻みで)でPPPDO像を撮影して、蹄尖を挙上(約2度)させた肢勢、および、二段階に後ろ踏みさせた肢勢(垂直から3cm又は6cm尾側に蹄を引かせた状態)による、画像クォリティ(視認可能エリアの広さと皮髄境界の明瞭さ)への影響が評価されました。
参考文献:
Peeters MWJ, Thursby JJ, Watson HE, Berner D. Caudal foot placement superior to toe elevation for navicular palmaroproximal-palmarodistal-oblique image quality. Equine Vet J. 2023 Jan;55(1):122-128.

結果としては、前肢が垂直である場合に比べて、後踏みさせた肢勢のほうが、PPPDO像のクォリティを向上できることが示されました。この際には、40〜45度の角度での撮影によって、視認可能エリアおよび皮髄境界の明瞭さの何れにおいても、最適な画像クォリティが達成されました。また、蹄尖挙上に6cm後踏肢勢を併用した場合には、屈腱面角度が有意に減少したものの、蹄尖挙上によって、PPPDO像のクォリティが明瞭に好影響を受ける訳ではないことが分かりました。
以上の結果から、馬の前肢の舟状骨を撮影する際には、馬に後踏肢勢を取らせて、尾側から約45度の角度でPPPDO像を撮影するという方針が適切であることが再確認されました。また、この際には、上下に約5度の誤差範囲が許容されることも示されました。一方で、蹄尖挙上による画像クォリティの向上は限定的であったことから、舟状骨撮影用として市販されている蹄尖挙上カセットホルダーは、必ずしも常に有益であるとは限らない、という考察がなされています。

この研究では、蹄尖挙上させた場合の舟状骨の屈腱面は、1.2〜2.1度しか角度変化しておらず、X線ビームの照射角度を大きく変える必要はないことが示唆されました。一方で、過去の文献では、蹄尖挙上させたときのPPPDO像は、撮影角度を45度から30度に減らすことが提唱されています(Clinical radiology of the horse. 2017)。この差異が生じた理由は、明確には結論付けられていませんが、実馬と屠体肢による評価法の違いに起因する可能性もあります。
一般的に、気性の難しい臆病な馬では、カセットホルダー上に検査肢を静置してくれないことから、X線撮影の際に、補助者が対側肢を持ち上げて保定することもあります。しかし、この場合には、馬に後踏肢勢を取らせられないため、検査肢が垂直になってしまうというデメリットが予測されます。今回の研究では、検査肢が垂直になることで、舟状骨の大部分が視認不可となったり、皮髄境界の評価が難しくなるなど、誤診に繋がる要素が生まれると懸念されています。このため、PPPDO像の撮影時には、より深い鎮静や鼻捻棒の使用など、対側肢を持ち上げる以外の保定法を追求するのが望ましい、という考察がなされています。
Photo courtesy of Equine Vet J. 2023 Jan;55(1):122-128.
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