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馬の病気:浅屈腱転位

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浅屈腱転位(Superficial digital flexor tendon dislocation)について。

浅肢屈筋腱(Superficial digital flexor muscle tendon)の転位は、この腱を踵骨(Calcaneus)に固定している外側または内側の帯状付着部(Fascial attachment)が、蹴傷や飛節の過剰伸展(Over-extension)などの外傷性に断裂(Traumatic disruption)することによって発症し、殆どの場合に外方転位(Lateral dislocation)を起こすことが知られています。また、進行性の繋靭帯装置破損(Progressive breakdown of suspensory apparatus)に続発する、後肢球節過伸展(Hyperextension of hind fetlock joint)が発症素因(Predisposing factors)となる可能性も示されています。

浅屈腱転位の症状としては、初期病態では顕著な跛行(Obvious lameness)が見られ、広範囲にわたる踵骨隆起(Tuber calcis)の腫脹を示すことから、飛端腫(Capped hock)と混同される場合もあります。しかし飛端腫と異なり、転位した浅屈腱が飛節屈曲時に異常な動揺を起こすことから、患馬は異常に興奮したり、後肢を蹴る仕草を示すこともあるため、充分な鎮静を施してから初診を行うことが重要です。発症後は、時間の経過に伴って跛行や腫脹が減退し、患部の触診によって浅屈腱の転位が触知されますが、超音波検査(Ultrasonography)および造影レントゲン検査(Contrast radiography)によって浅屈腱転位の確定診断(Definitive diagnosis)と、踵骨骨折(Calcaneal fracture)の併発を確認します。浅屈腱の亜脱臼(Subluxation)を発症した症例では、起立時には浅屈腱が正常位に認められますが、触診によって浅屈腱の不安定性(Instability)が確認されたり、常歩時に浅屈腱の動揺が観察される場合もあります。

浅屈腱転位の治療では、転位した浅屈腱が踵骨隆起の上に残存している軽度の病態や、亜脱臼のみを起こした症例においては、3~6ヶ月の馬房休養(Stall rest)と非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与によって、比較的良好な治癒が期待できることが示されていますが、後肢の機械性跛行(Mechanical lameness)が遺残する可能性もあります。このため、確実な競技および競走への復帰が望まれる症例においては、外科的療法によって浅屈腱転位を整復することが推奨されています。この際、浅屈腱転位の発症直後には、断裂した腱膜が縫合糸を充分に保持できない事が示唆されていますが、発症後に時間が経ち過ぎると、脱臼した側の腱膜が拘縮して完全な整復が難しい事が報告されています。また、慢性経過を示した病態においては、軟部組織硬化剤(Soft tissue sclerosing agent)を腱周囲注射(Peritendonous injection)する療法が試みられる事もあります。

浅屈腱転位の外科的療法では、転位した浅屈腱を踵骨上に推し戻した後、内側腱膜の縫合が行われ、遠近近遠縫合(Far-near-near-far suture)や水平・垂直マットレス縫合(Horizontal/Vertical mattress suture)などの強度の高い縫合法が応用されます。また、合成メッシュ移植(Synthetic mech graft)や踵骨端の外底側面(Plantarolateral surface)に挿入した皮質骨螺子(Cortical lag screw)によって、浅屈腱が外側へ再転位するのを防ぐ手法も報告されています。術後には、数ヶ月にわたって羅患肢の全肢ギプス固定(Full limb casting)を実施することで、飛節の不動化(Tarsal joint immobilization)が行われます。

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