馬の文献:離断性骨軟骨炎(Relave et al. 2009)
文献 - 2023年04月28日 (金)

「下腿足根関節の骨軟骨症の診断におけるX線検査とエコー検査の比較:前向き研究」
Relave F, Meulyzer M, Alexander K, Beauchamp G, Marcoux M. Comparison of radiography and ultrasonography to detect osteochondrosis lesions in the tarsocrural joint: a prospective study. Equine Vet J. 2009 Jan;41(1):34-40.
この症例論文では、馬の飛節の離断性骨軟骨炎(OCD)の診断法を確立させるため、2006〜2007年にかけて、カナダのモントリオール大学の獣医病院において、飛節OCDの検査及び治療のために外来した73頭の症例馬(計111関節)に対して、X線検査とエコー検査が実施され、OCD病変の診断能が評価されました(上写真の略号:MM→内顆、MT→内側滑車、fgt→OCD骨片)。
結果としては、関節鏡で確定診断されたOCD病変の発生箇所は、脛骨の遠位中間稜が94関節、内顆が24関節、外側滑車が4関節となっていました。このうち、術前のX線検査で病変が視認できたのは、遠位中間稜では96%であったのに対して、内顆では71%に過ぎないことが分かりました。また、内顆のOCD病変においては、背底側撮影像よりも、30度の背外側底内側斜位撮影像(30-degree DLPMO)にて明瞭に視認できたケースが、82%にも及んでいました。さらに、術前のエコー検査で病変が視認されたのは、遠位中間稜では98%で、内顆でも83%に上っていました。
このため、馬の飛節OCDのX線検査においては、脛骨の遠位中間稜に比べて、内顆のほうが、画像診断が難しいことが再確認されました。そして、内顆のOCD病変を診断するために、浅めの角度(30度)で撮ったDLPMO像、および、エコー検査が有用であることが示唆されました。この理由としては、内顆の病変が軸側に位置していることが多く、通常の角度(45度のDLPMO像)で撮影してしまうと、病変と距骨が重なって視認しにくくなる事が挙げられています。また、病変が軟骨下骨に未到達で、軟骨成分しか含まないケースでは、病変全体がX線透過性であるため、画像上には写らない場合もあると考察されています。
この研究では、飛節のOCD病変をX線検査で診断する際に、軟骨下骨の不整も異常所見の一つと見なされました。しかし、これらの部位に関節鏡で病変が無かったケース(偽陽性)は、遠位中間稜では29%、内顆では15%に及んでおり、これらの異常所見のうち、軟骨下骨の不整が占める割合は、遠位中間稜では80%で、内顆では70%となっていました。つまり、軟骨の深部にある骨組織に骨吸収や骨硬化が起きていても、それを覆っている関節軟骨の表面(=関節鏡で観察している箇所)は正常である場合があったと推測されます。これらの鑑別のためにも、術前のX線とエコーの比較が有用だと考えられましたが、その一方で、OCD病変が尾側に位置していると、エコー検査で視認できないケースもある(=偽陽性)、という警鐘が鳴らされています。
この研究の限界点としては、二次病院での調査であるため、全ての症例が関節鏡の実施を考慮したうえで搬入されていた事が挙げられています。つまり、一次診療の段階で手術適応だと判断された症例のみ含まれていたため、X線やエコー画像の評価者が、僅かな異常所見でも、臨床的に有意であると判断しがちであった、というバイアスが働いた可能性が示唆されています。なお今回は、回顧的ではなく前向き研究であったため、主治医が求めたか否かに関わらず、全症例に対してX線とエコー検査が実施されていました。また、これらの検査の担当者は別々で、もう一方の検査結果は知らされていない(二重盲検)という状況で検査および画像読解が行なわれていました。
Photo courtesy of Equine Vet J. 2009 Jan;41(1):34-40.
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