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馬に対するセフチオフルの使い方

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セファロスポリン系の抗生物質は、1964年に初めて市販されるようになって以降、ヒト医療と獣医療の両方でポピュラーになってきました。世界的に見ても、その使用は2000~2015年にかけて著しく増加し、発展途上国でのセファロスポリンの使用量が399%も増加したことが知られています。セフチオフルは、第三世代のセフェロスポリンであり、多くのグラム陰性菌および陽性菌に効くことから、全身投与薬として馬の治療にも一般的に使用されています。一方、近年では、セファロスポリンの耐性菌が増加していることが報告されており、セフチオフルのような抗生物質を正しく使っていくことが重要であると提唱されています。

現在、獣医学における抗生物質の使用は、如何にその管理方針を改善していくかが求められています。特に、セフチオフルのようなセファロスポリン系抗生物質は、多様な感染症の治療や予防のために、馬に対して頻繁に処方されていますが、ヒトの医療においても重要な抗生物質であることを考慮することも大切です。このため、馬の臨床医は、セフチオフルの投与量と適切な使用条件に関して、馬に特化したエビデンスを知ることが大切だと言えます。ここでは、セフチオフルの特性、馬における薬物動態および薬理学の知見、および、セフチオフルを使用した臨床研究について解説した知見を紹介します。

参考文献:
Ryan CA, McNeal CD, Credille BC. Ceftiofur use and antimicrobial stewardship in the horse. Equine Vet J. 2023 Feb 2. doi: 10.1111/evj.13930. Online ahead of print.

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馬における抗生物質スチュワードシップ

海外では、多数の獣医療関連組織が、馬臨床医に向けた抗生物質使用のガイドラインを出しています。これには、世界動物保健機関、米国の獣医内科学会、英国の馬獣医師協会、欧州医薬品庁などが挙げられ、また、米国獣医学会、カナダ獣医学会、欧州獣医師協会が推奨するものが含まれています。これらの文書に示されているように、抗生物質の耐性菌の広がりに関しては、公衆衛生および獣医学的な側面で深い懸念が示されています。

事実、世界保健機関(WHO)によれば、第三から第五世代のセフェム系抗生物質は、最も重要性が高いヒト用の抗生物質リストの最上位カテゴリーに分類されています。この分類の基準は、①抗生物質がヒトの重篤な細菌感染症を治療するために唯一もしくは限定された治療法であること、および、②この抗生物質で治療される細菌が動物からヒトへと伝播しうること、および、③動物から細菌へと耐性遺伝子の獲得が起きうること、などが含まれています。

一般的に、馬臨床医による抗生物質の使用に関しては、息労、単純な外傷、ウイルス性の呼吸器疾患などの治療において、抗生物質の処方に疑問符がつく事象が散見されると言われています。この要因としては、過去の経験則だけに基づいて抗生物質が選択されること、細菌培養が実施できない場合が多いこと、経済動物として迅速に治療する必要性が高いこと、および、免疫抑制作用のあるコルチコステロイドなどの他の薬剤で治療することを躊躇されること、などが挙げられます。

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世界的に見ても、獣医師がクスリを処方する際には、高世代セフェム系抗生物質を第一選択薬として用いるのを避ける、という抗生物質スチュワードシップの推奨事項があまり遵守されていないと言われています。近年の研究では、8.5〜11%の馬の臨床医が、ヒトの医学的に重要な抗生物質を、第一選択薬として処方しており、また、二次病院の馬臨床では、一次診療と比較して、第三世代または第四世代のセフェム系抗生物質を処方する割合が二倍以上も多い(オッズ比=2.3)ことが報告されています。このため、セフェム系抗生物質を回避できる状況において、馬の臨床医がより良い理解を持つことが有益だと考えられます。

抗生物質スチュワードシップでは、使用薬の選択に細心の注意を払うことに加えて、使用薬を適切量だけ投与することも極めて重要です。しかし、馬の臨床において、特に、往診の現場では、体重を正確に測定できないケースも多いことから、推奨される投与量よりも多い量を処方してしまう可能性があると考えられます。言うまでもなく、抗生物質の過剰投与が起こると、耐性菌の出現率も増加してしまうと言えるでしょう。

また、馬の臨床においては、抗生物質の感受性試験を実施しないケースが多い(49.2%)ことも報告されています。細菌培養を介した感受性試験があまり適用されない理由には、治療を早急に開始する必要があること、産業動物としての経済性の問題、培養のためのサンプル採取が難しい病態もあること(フレグモーネ等)、ヒト医療の検査機関における試験の信頼性への懸念、試験結果が出るまでの時間が長いこと、などが挙げられています。しかし、適切な抗生物質スチュワードシップにおいては、可能な限り、細菌培養と抗生物質の感受性試験を実施して、最善の薬剤選択をするための情報を得ることが推奨されています。



馬におけるセフチオフルの特性と臨床研究

成馬と子馬での研究では、主に呼吸器疾患の治療に焦点が当てられており、投与の主目的は、Streptococcus equi ssp. zooepidemicusによる呼吸器感染症の治療になり、また、新生仔馬では、細菌性敗血症の治療に焦点が置かれています。子馬におけるセフチオフルの使用に関しては、以下の三つの課題があります:①子馬は成馬と異なる用量と投与間隔が必要であること、②新生子馬から頻繁に分離される特定の病原体は、セフチオフルに内在的に耐性を持っていること(エンテロコッカス属菌など)、③他の抗生物質と組み合わせるほうが、子馬の敗血症治療には効能が高いこと(抗生物質スチュワードシップのガイドラインに、より適合する方針)。

過去の文献では、呼吸器感染症を患った馬に対して、セフチオフル(2.2 mg/kg、筋注、24時間毎に最大10日間)で治療された群と、アンピシリン(6.6 mg/kg、筋注、12時間毎に最大10日間)で治療された群を比較したところ、いずれの群も、発熱、鼻汁、呼吸数、活力低下の症状が改善されたものの、完治が達成された症例は、セフチオフル群では78.6%に上ったのに対して、アンピシリン群では59.3%に留まりました(前述指標の測定値の正常化、および、追加治療の必要性がない場合を完治と定義)。また、気管洗浄にて最も多く検出された病原体はStreptococcus zooepidemicusでしたが(38%の気管洗浄から検出)、全体の六割以上の症例では、バシルス属、ブドウ球菌属、パスツレラ属など、多くの菌種が混合感染しており、この中には、アンピシリン耐性菌が含まれていました。つまり、呼吸器の混合菌感染を起こしていたことが、セフチオフルの効能が優れていた要因であると推測されています。

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原則として、細菌培養や感受性検査の結果を待っているあいだに抗菌療法を実施する場合には、病気の重症度、投与の実用性、そして、一般的に分離される菌種などが考慮されます。成馬において、下部気道感染を起こす細菌のうち、最も多く分離されるのはStrep. zooepidemicusですが、グラム陰性の腸内菌や嫌気性菌を含む混合感染もよく見られます。しかし、病状が重篤な症例では、治療の遅れが悪影響を及ぼすリスクがあるため、すぐに治療を開始する必要があります。この場合、ペニシリンとゲンタマイシンの組み合わせが最も一般的ですが、重篤な症例では、アミノグリコシド系の使用はあまり好ましくないとされています。このような特定の状況では、例外的に、セフチオフルを第一選択の抗生物質として処方するのが妥当だと言えます。また、セフチオフルが効きにくい嫌気性菌(Bacteroides fragilisなど)が検出される場合もあるため、メトロニダゾールの併用が選択されることもあります。

一方で、セフチオフルをエアロゾル化する技術は、肺炎に対するネブライザー治療として、多くの馬臨床医によって頻繁に使用されています(セフチオフル単独または他の抗菌療法との併用)。この際には、注射用セフチオフル溶液(25mg/mL)は、エアロゾル化に最適な粒子サイズと粒子密度を有していると言われており、セフチオフルをエアロゾル化した後の薬物動態学的特性(2.2 mg/kg、50 mg/mLに希釈)が示されています。過去の文献では、セフチオフルのネブライザー治療を受けた子馬は、筋注された子馬に比べて、肺胞外液中のピーク濃度と曲線下面積が有意に高いことから、投与後の24時間以上にわたって、Strep.zooepidemicusのMIC90よりも高い濃度が維持されたことが報告されています。全身投与されたセフチオフルの分布は、薬剤および血漿中の特性によって左右されてしまうため、ネブライザー治療は、感染部位での高濃度の薬剤投与を実現するための優れた手段の一つであると言えます。

セフチオフルは、新生子馬の敗血症の治療に広く使用されており、耐性菌の発生も報告されています。近年の文献では、重症の新生子馬543例において、陽性血液培養が29%の症例で発生しましたが、グラム陰性菌(E. coli、Klebsiella spp.、Salmonella spp.、Actinobacillus spp.)の感受性率は8〜100%であり、一方で、Enterobacter spp.とPseudomonas spp.では、セフチオフルに対する感受性率が有意に低かった(それぞれ63%と29%)ことが分かりました。また、新生子馬から分離されたグラム陽性菌では、セフチオフルに対する感受性は低く(Enterococcus spp.およびStaphylococcus spp.の感受性率は0〜43%)、Streptococcus spp.のみ100%の感受性があったという知見もあります。更に、下痢を伴う新生子馬の菌血症の回顧的調査では、グラム陰性菌の感受性率は87%でしたが、グラム陽性菌におけるセフチオフルに対する感受性率は、わずか29%に留まったとも報告されています。同様の研究では、427例の敗血症の新生子馬のうち、血液培養分離株の全体的な感受性率が60%でしたが、グラム陰性菌の感受性率が75%に達したのに対して、グラム陽性菌の感受性率は37%に過ぎませんでした。このため、同研究では、セフチオフルとゲンタマイシンを併用することで、感受性率が68%まで改善されたと報告しています。

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さらに、他地域の施設では、セフチオフルに対するグラム陰性菌とグラム陽性菌の感受性について相反するような結果が報告されています。ニュージーランドの新生子馬から分離された菌では、全体的な感受性率が68%であり、グラム陽性菌の分離株でも、76%がセフチオフルに感受性がありました(主にStreptococcus属とStaphylococcus属)。ただし、Enterococcus属の分離株では、セフチオフルへの感受性は33%に留まっており、E. coliを含むグラム陰性菌のセフチオフルに対する感受性は低かったことが分かりました。以上の知見を鑑みると、新生子馬の敗血症に対しては、セフチオフルは合理的な第一選択肢ではない可能性がありますが、セフチオフルに対する細菌の感受性には地域差が大きいと推測されています。

なお、牝馬においては、セフチオフル投与後の子宮内膜組織中の濃度が調査されており、Strep. zooepidemicus感染に起因する子宮内膜炎を治療するには、十分な濃度が子宮内膜組織中に検出されたことが示されています。ただ、馬の臨床医は、細菌培養及び感受性検査結果を参照して、第一選択の抗生物質を選んだり、局所療法も併行して実施しながら、セフチオフルを投与するか否かを判断する必要があります。その一方で、牝馬における胎盤炎の治療には、セフチオフルはあまり有用ではないとも言われています。

そして、一部の馬臨床医は、ライム病の治療にもセフチオフルを推奨しています。過去の文献では、Borrelia burgdorferiに実験的感染させたポニーの治療として、セフチオフル(毎日2.2mg/kg、筋注、28日間)が投与され、その有効性が、ドキシサイクリンおよびテトラサイクリンと比較されました。その結果、テトラサイクリンは、ドキシサイクリンおよびセフチオフルよりも血清価を低下させる効果が高く、剖検での細菌培養が陰性となった唯一の抗生物質でした。このため、ライム病の治療に際しては、セフチオフルよりも他の抗生物質が、より好ましい選択肢であると推測されています。

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更に、セフェム系抗生物質は、化膿性関節炎、腱鞘炎、開放骨折などの整形外科的疾患の治療にも応用されています。実験的には、セフチオフル(2g)を掌側指静脈への局所肢灌流法で投与した場合、皮下組織中の薬物濃度は、24時間以上にわたって、有効濃度(MIC 1μg/mL)を上回っていました。一方、セフチオフル(150 mg)を手根関節内に投与した実験では、有効濃度(MIC 2 μg/mL)以上が、24時間以上も維持されたことが報告されています。他の研究でも、セフチオフル(2g)を橈骨静脈に局所肢灌流することで、24時間以上にわたって関節液中の濃度も、有効濃度(1μg/mL)以上を維持したと報告されています。その一方、最近の論文では、セフチオフル(2g)を局所肢灌流した後、関節液中の平均濃度は高くなっていたものの、8時間後に有効濃度(1μg/mL)以上を示したのは半数の馬に過ぎず、24時間後には薬剤は検出されなかった、という知見もあります。

加えて、成馬における胆管炎や胆石症の治療として、セフチオフルを含む抗生物質の使用が報告されています。この研究では、9頭中6頭に対して、セフチオフル(2〜4 mg/kg、静注、12時間ごと)が単剤または他の抗菌薬との併用で投与された結果、全頭が臨床的な改善を示し、最終的に完治していました。一方、セフチオフルは、高いタンパク質結合性と弱い酸性のため、血液脳関門を通過して脳脊髄液に浸透する能力が低いことが示されています。実際には、細菌感染によって血管が不安定になり、セフチオフルが脳脊髄液まで到達できる可能性はありますが、髄膜炎の治療においては、血液脳関門をより効果的に通過できる他の抗生物質の方が適していると考えられています。



馬へのセフチオフル投与において重要なこと

セフチオフルは、ヒトの医療上、重要な抗生物質でありながら、馬において耐性菌が確認されているため、厳重な抗生物質スチュワードシップが求められる薬剤であると言えます。つまり、他の第一選択の抗生物質療法が利用できない場合、または、その効能が不十分である場合にのみ、セフチオフルの使用を推奨するという原則を順守することが大切だと言えるでしょう。

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