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馬の胃潰瘍に対する筋注薬の作用

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馬は、胃潰瘍を起こし易い動物であることが知られており、その治療や予防のために、胃酸を抑える作用を持つオメプラゾール(プロトンポンプ抑制剤)の投与が行なわれています。通常、オメプラゾールは、毎日の経口投与を要することになりますが、近年の研究では、徐放性に遊離するオメプラゾール製剤が開発され、これを週に一回だけ筋肉内投与することで、経口薬と同等な効能が得られることが分かってきています[1,2]。

ここでは、そのような徐放性オメプラゾールの筋注に関して、その投与頻度と効能の関連性を調査した知見を紹介します。この研究では、内視鏡で胃潰瘍の発症が確認された82頭の馬に対して、徐放性オメプラゾールの筋注を、五日おき又は七日おきに実施して、胃潰瘍病変の経時的な評価、および、オッズ比(OR)の算出による関連因子の解析が行なわれました。

参考文献:
Sundra T, Kelty E, Rendle D. Five versus seven-day dosing intervals of extended-release injectable omeprazole in the treatment of equine squamous and glandular gastric disease. Equine Vet J. 2023 Mar 28. doi: 10.1111/evj.13938. Online ahead of print.

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結果としては、腺胃部の胃潰瘍が治癒した馬の割合は、五日おきの筋注では93%に上ったのに対して、七日おきの筋注では69%に留まっていました(胃潰瘍スコアが0または1になった場合を治癒と定義)。このため、五日おきのほうが、胃潰瘍が治癒する確率が二倍以上も高い(OR=2.41)という結果が示されました。一方、扁平上皮部の胃潰瘍が治癒した馬の割合は、五日おきの筋注では97%であったのに対して、七日おきの筋注では82%となっていました(統計的な有意差は無し)。このため、徐放性オメプラゾールを筋肉内に投与する治療法では、週に一回ではなく、五日間ごとに注射するほうが、胃潰瘍に対する治療効果が高いことが示唆されました。

この研究では、徐放性オメプラゾールの投与のため、計328回の筋注が行なわれ、そのうち、注射部位の副作用が認められたのは1.2%(4/328回)に上りました。過去の文献を見ても、徐放性オメプラゾールの筋注によって、注射箇所の副作用を示したケースが5.1%(5/98回)に達したという報告があり[1]、また、他の文献では、一ヶ月にわたる徐放性オメプラゾールの投与期間中に、筋注した箇所に副作用を示した馬の割合が23%に及んだという知見もあります[2]。幸いにも、副作用の症状は、軽度の腫脹や熱感などで、数日間で治まっていましたが、このような副作用を抑えるため、頚部ではなく臀部の筋肉への注射することも推奨されています。

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今回の研究の結果から、徐放性オメプラゾールを筋注する場合には、五日間という短い間隔で投与することで、胃潰瘍への効能を向上できると推測されますが、注射回数が増えることで、副作用のリスクも増加すると考えられます。一般的に、馬の胃潰瘍の治療や予防に際しては、数ヶ月間にわたるオメプラゾール投与を要する症例も多いことから、動物ウェルフェアの観点からも、筋注ではなく経口投与できる薬剤を選択するべきなのかもしれません。また、胃潰瘍への対処としては、給餌回数の増加や、ストレスを軽減する飼養管理法の改善などを第一指針とすべきであり、オメプラゾール療法はあくまで付加的な対策に過ぎない、という原則を再認識することも重要だと言えそうです。

Photo courtesy of Equine Vet Edu. 2022;34(11):573-580 & RANDLAB.

参考文献:
[1] Gough S, Hallowell G, Rendle D. A study investigating the treatment of equine squamous gastric disease with long-acting injectable or oral omeprazole. Vet Med Sci. 2020 May;6(2):235-241.
[2] Lehman ML, Bass L, Gustafson DL, Rao S, O’Fallon ES. Clinical efficacy, safety and pharmacokinetics of a novel long-acting intramuscular omeprazole in performance horses with gastric ulcers. Equine Vet Edu. 2022;34(11):573-580.

関連記事:
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・唾液検査による馬の胃潰瘍の診断
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・育成期サラブレッドの胃潰瘍
・馬の病気:胃潰瘍
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