馬の文献:離断性骨軟骨炎(Brink et al. 2009)
文献 - 2023年05月05日 (金)

「馬の下腿足根関節の離断性骨軟骨炎における滑膜の病理組織変化と臨床症状の関係」
Brink P, Skydsgaard M, Teige J, Tverdal A, Dolvik NI. Association between clinical signs and histopathologic changes in the synovium of the tarsocrural joint of horses with osteochondritis dissecans of the tibia. Am J Vet Res. 2010 Jan;71(1):47-54.
この症例論文では、馬の離断性骨軟骨炎(OCD)における病態解明と診断法確立のため、2002〜2004年にかけて、欧州の複数の馬病院において関節鏡手術が適応された93頭のOCD罹患馬、および、38頭の対照馬における、滑膜組織の病理検査所見と臨床症状との関連性が調査されました。
結果としては、OCD罹患馬の下腿足根関節における滑膜では、滑膜細胞の増殖や細胞浸潤などの病理所見が、関節包膨満の臨床症状と有意に相関していたことが分かりました。一方で、いずれの病理所見も、跛行や屈曲試験への反応性など、他の臨床所見との相関は認められませんでした。なお、病理所見の評価に用いられた点数化システムでは、中程度から良好な観察者間・観察者内同意が達成されたことが報告されています。
このため、馬の飛節に発症したOCDでは、跛行を示さず、屈曲試験での疼痛反応も無いという症例でも、関節液増量による関節包膨満が認められる場合には、病理組織学的に深刻な滑膜の異常が起こっていると予測されることが示唆されました。このため、たとえ無跛行や軽度跛行であっても、関節包が膨満しているOCD罹患馬では、滑膜炎から変性関節疾患(DJD)へと病気が進行してしまう前に、早期の関節鏡手術を適応することが推奨されると結論付けられています。
この研究の限界点としては、調査対象となった症例馬は、全て手術適応として二次病院に紹介された馬であったことが挙げられています。つまり、一次診療の段階で、OCDの保存療法が試みられて自然治癒した、というケースは含まれていないと推測されます。このため、関節包膨満などの臨床所見が、常に予後不良になりうる程の滑膜炎と関連しているか否かは、正確には評価できていなかった可能性が懸念されます。今後の研究では、滑液検査での異常値や(蛋白濃度や白血球数)、滑膜のエコー検査所見、関節包膨満の仕方や進行度合いなど、病理検査以外の方法で滑膜炎を評価する指標についても、その診断意義や予後判定能を調査するのが有用だと考えられました。
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