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馬肉への残留薬物の懸念(米国)

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いま、米国では、食用に転用される馬に関して、残留薬物によって馬肉が汚染されてしまうという懸念が深まっています。北米で生産されている馬肉に起こっているこの問題は、日本を始め、馬肉を食する文化のある多くの国では、常に注視しておく必要があると言えそうです。ここでは、米国での馬肉の残留薬物について解説した論文を紹介します。

参考文献:
Weber K, Kearley ME, Marini AM, Pressman P, Hayes AW. A review of horses sent to slaughter for human consumption: impact of horsemeat consumption, residual banned drugs, and public health risks. Am J Vet Res. 2023 Jan 26;84(3):ajvr.22.10.0185.



現在、米国から輸出される馬の殆どは、メキシコとカナダに輸出されて人間の食用として処理されることが知られており、その肉は世界中に輸出されています(一部は現地で消費される)。近年の調査では、食用として輸出される予定であった18頭のサラブレッド競走馬に、抗炎症剤であるフェニルブタゾンが投与されていたことが判明しています。

また、別の調査では、2016~2021年にかけて起こった問題事例が報告されており、これには、残留薬物に汚染された馬肉がカナダの屠畜場から出回ったこと、獣医師が処方したフェニルブタゾンによって特異的な影響が出たこと、クレンブテロールの残留が認められる馬がいたこと、および、カナダの馬肉にこれらの残留薬物が含まれていたこと、などが含まれました。

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そして、2016~2017年にかけて、米国からカナダに輸出された馬の数は急激に減少し、2020年には再び減少していた、という事象も報告されています。通常、食用の動物では、禁止薬物が投与された食肉が流通しないようにするために厳密に規制されています。そのような規制を設ける理由は、禁止薬物に対するゼロ容認と法令遵守のための検査を行なうことにあります。

残念ながら、フェニルブタゾンのような禁止薬物が投与された馬を、食肉の流通から除去するための規制はありません。この薬物の効果は、シクロオキシゲナーゼに不可逆的に結合し、排泄が遅く、代謝物のオキシフェニルブタゾンの半減期が長いという問題があります。フェニルブタゾンを高濃度かつ頻繁に投与すると、血中濃度も増加し、組織中の残留薬物が生じてしまいます。これこそが、食用の動物において、フェニルブタゾンを禁止している根拠になります。

実は、現時点での重要な問題として、禁止薬物が残留した馬肉を食することによる、短期的および長期的なヒトの健康への影響を、個人のレベルで監視する監視プログラムは整備されていないという点があります。もし、米国において、全ての食用動物に対する禁止薬物の投与を規制できないのであれば、米国からカナダとメキシコへの馬の輸出は、少なくとも、ヒトの食用肉のために屠殺することを目的としたものに関しては、速やかに中止するべきである、という提唱もなされています。

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この問題には、付帯した幾つかの問題があり、その一つは、動物に投与する薬物の規制指針に関してです。米国の食品医薬品局(FDA)は、馬を食用動物ではなく、愛玩動物とみなしているのが現状です。これは、狩猟民族としてのアメリカの国民性を反映したものと言えますが、食用動物でないが故に、馬に対する禁止薬物の投与を連邦政府として法規制することが出来ていない、という問題点が指摘されています。

二つ目の問題は、欧州と他の地域とで、馬肉の流通ルールが異なる点が挙げられます。2013年に発覚した馬肉の混入スキャンダルの後、欧州連合は2017年に新政策を導入しました。その結果、カナダで屠殺された馬肉が欧州連合に輸送される場合は、屠殺前に六ヶ月間、カナダで係留されたものに限るというルールになりました。当然ながら、そのような長期係留は経済的負担が大きいため、カナダに輸入されて直ぐに屠殺された馬の肉は、欧州以外の国へと輸出されてしまっているのです。

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三つ目の問題は、カナダ食品検査庁(CFIA)による検査体制の甘さであると言われており、カナダ国内で残留薬物の検査を受けているのは、生産される馬肉の1%以下に過ぎないと言われています。このため、前述の論文が提起しているように、米国からカナダに輸出された馬から生産される馬肉については、有害な残留薬物を排除するため、米国での薬物投与の規制、および、カナダでの食肉検査の向上という両側面から対策に取り組んでいくべきではないでしょうか。

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このエントリーのタグ: ヒトと馬 薬物療法 動物福祉

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