馬の病気:第三腓骨筋断裂
馬の運動器病 - 2013年09月06日 (金)

第三腓骨筋断裂(Peroneus tertius rupture)について。
第三腓骨筋(Peroneus tertius muscle)は、長指伸筋(Long digital extensor muscle)と頭側脛骨筋(Cranial tibialis muscle)のあいだを走行する強固な筋束状組織(Strong muscle band tissue)で、近位部では遠位外側大腿骨(Distal lateral femur)の伸筋窩(Extensor fossa)に起始し、遠位部では第三および第四中足骨(Third and fourth metatarsal bone)に結合しています。第三腓骨筋は、腓腹筋(Gastrocnemius muscle)および浅屈筋(Superficial digital flexor muscle)と共に、相反合同装置(Reciprocal apparatus)の一端を形成して、膝関節(Stifle joint)、飛節(Tarsal joint)、球節(Fetlock joint)の三つの関節を、合同的に屈曲させる機能を担っています。
第三腓骨筋断裂は、飛節の過伸展(Tarsal over-extension)に起因し、後肢が固定物に引っ掛かった状態で起立しようともがいたり、障害飛越の踏み切り時や、バレルレース等の急回転をする走行競技中に発症することが知られています。また、後肢の全肢ギプス固定(Full limb cast fixation)が施された状態で寝起きした際に、飛節が伸展状態に保定されたまま膝関節を屈曲させる動作によって、第三腓骨筋の過緊張が起こり、断裂にいたる病態も報告されています。
第三腓骨筋断裂の症状としては、相反合同装置の頭側部機能(Function of cranial aspect of reciprocal apparatus)が失われるため、常歩で後肢を前方に運ぶ際に、膝関節の屈曲度合いに関わらず飛節が殆ど屈曲されずに、弱々しく前方に振り動かされる動作(Flaccid hindlimb swinging with minimal tarsal flexion)と、その際に腓腹筋腱(Gastrocnemius tendon:いわゆるアキレス腱)に凹み(Dimpling)が生じる所見が確認されます。起立時の羅患肢への負重は一般的に疼痛も無く正常ですが、後肢を挙上させた際には、健常な後肢には見られない膝関節屈曲時の飛節伸展(Tarsal extension with stifle flexion)と、飛節尾側面における腓腹筋腱の凹みが顕著に視診されます。
第三腓骨筋断裂の診断では、特徴的な臨床所見(Pathognomonic clinical sign)を視診および触診することで推定診断(Presumptive diagnosis)が下されますが、超音波検査(Ultrasonography)によって筋断裂の確定診断(Definitive diagnosis)と、断裂状態の把握を行います。また、膝関節のレントゲン検査(Radiography)によって、近位付着部における伸筋窩の裂離骨折(Avulsion fracture)の有無を確かめる事も重要です。
第三腓骨筋断裂の治療では、2~3ヶ月にわたる馬房休養(Stall rest)と、その後の2ヶ月にわたる曳き馬運動(Hand-walking exercise)の実施が推奨されており、殆どの症例において良好な筋断裂部の癒合が起きて、正常な歩様に回復できることが示唆されています。また、大腿骨伸筋窩の裂離骨折を併発した症例では、大腿膝蓋関節の関節鏡手術(Arthroscopy)による骨折片摘出(Fracture fragment removal)が行われます。
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.