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馬の文献:離断性骨軟骨炎(Sparks et al. 2011)

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「大腿膝蓋関節の離断性骨軟骨炎の軟骨フラップに対する関節鏡的な再固定術:長期的な治療成績」
Sparks HD, Nixon AJ, Fortier LA, Mohammed HO. Arthroscopic reattachment of osteochondritis dissecans cartilage flaps of the femoropatellar joint: long-term results. Equine Vet J. 2011 Nov;43(6):650-9.

この症例論文では、馬の後膝の離断性骨軟骨炎(OCD)に対する外科的治療の効能を評価するため、1996〜2010年にかけて、米国のコーネル大学の獣医病院において、大腿膝蓋関節の離断性骨軟骨炎を呈した27頭の馬(44関節)に対して、関節鏡手術を介した軟骨フラップの再固定術が実施され、再固定術と掻爬術でのX線所見を比較することで(両群間でのオッズ比[OR]の算出)、長期的な予後が評価されました。

結果としては、長期の経過追跡ができた20頭のうち、健常歩様に回復したのは95%(19/20頭)に及んでおり、このうち六割以上(12/19頭)は意図した競技能力の回復を果たしており、残りの七頭も、まだ調教中ではあるものの、歩様の異常は認められませんでした。また、術後の六ヶ月目までに、X線画像上でのOCD病変の消失が確認されたことが報告されています。なお、軟骨固定用のピン(ポリジオキサノン製の吸収性ピン)に起因する合併症は起きておらず、要したピンの本数は、中央値で3.8本となっていました(範囲は1〜10本、値段は100ドル/本)。

このため、馬の後膝に起こったOCDに対しては、関節鏡的な軟骨フラップの再固定術によって、健常歩様への完治と良好な長期的予後が達成され、競技能力を完全な回復が期待できることが示唆されました。関節軟骨を再固定する手法(Nixon et al. EVJ. 2004;36:376)では、利点として、関節面の連続性が維持されること、粘弾性を有した硝子軟骨が保存されること、罹患部位の軟骨下骨が露出しないため、対側の関節面の損傷を避けられること、等が考えられます。

一般的に、馬のOCDでは、年齢が八ヶ月齢以下で、病変サイズが2cm以下であれば、自然治癒するケースも多いことが報告されています。また、大腿骨の外側滑車でのOCDを掻爬する場合には、軟骨病変の大きさや深さが重要であり、グレード1病変のほうが、グレード2又は3よりも、有意に予後が良いことが報告されています。今回の研究では、八ヶ月齢以上の症例が七割以上を占め(20/27頭)、全ての病変が2cm以上の大きさで(グレード2or3)、また、臨床症状としては、全頭が関節包膨満を呈して、術前に跛行していた症例も九割近くに上っていました。

このため、馬の後膝OCDにおける関節軟骨の再固定術では、高齢かつ大型の病変で、関節膨満や跛行の徴候が認められるような、病態が進行したケースであっても、比較的に良好な予後が期待できる点で、非常に優れた治療法であると考察されています。なお、今回の研究で、慢性跛行を示した1頭は、12ヶ月齢で、両後肢の後膝にグレード3病変(内外側両方の滑車)を呈しており、軟骨下骨の広範な損傷から変性関節疾患を起こしたことで、予後が芳しくなかったと考察されています。

この研究では、関節軟骨の再固定術におけるメリットとして、術後の回復の早さが挙げられており、跛行や関節膨満が三ヶ月以内に消失した症例が89%(24/27頭)に達していました。この要因としては、手術の直後から、大腿骨滑車のスムーズな滑走面を取り戻せることが挙げられており、これが、外科的掻爬と比較した場合の明瞭な利点であると考えられました(掻爬術では、線維軟骨によって関節面が被包されるまで、長期間を要する場合が多い)。

この研究では、術後に関節鏡を再実施できた馬はおらず、大腿骨滑車の病変治癒の評価はX線画像に依存していましたが、掻爬された病変よりも、軟骨再固定された病変のほうが、有意に早期かつ優れた治癒を示していました。例えば、術後の六ヶ月目のX線では、掻爬よりも軟骨固定の方が、滑車の形状が回復する割合が十倍近く高く(OR=8.0)、また、滑車の欠損部充填が見られる割合は二十倍も高い(OR=20.0)ことが分かりました。

この研究では、OCD病変の再固定や掻爬に併行して、濃縮骨髄液の自家移植も実施されており(21/44関節)、術後のX線での病変治癒が良化される傾向が認められました(統計的な有意差は無し)。特に、関節軟骨が再固定できずに、軟骨下骨が露出している箇所や、再固定する軟骨の深部骨組織が重度に変性している箇所では、骨髄液内の前駆細胞を病巣に提供することで、軟骨再生や骨と軟骨の再癒合を促進させる効能が得られたと推測されています。なお、この手法では、胸骨穿刺で採取した60mLの骨髄液を、遠心処置で7mLまでに濃縮させてから、0.7mLのトロンビンを混和させながら、18Gの脊髄針で病変箇所に充填させていました。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2011 Nov;43(6):650-9.

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