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馬場馬に野外騎乗をさせることの利点

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乗馬の競技馬をトレーニングするときには、特定の専門種目に特化させるという課題が生まれてきます(馬場馬、障害馬、ハンター障害馬、総合馬、ウェスタン競技馬など)。しかし、専門種目に熟練した馬をトレーニングする際に、その種目だけに集中して練習すべきでしょうか?それとも、野外騎乗などの他の運動様式も実施させて、専門種目以外の調教ツールを応用することで、何らかの利益を得ることが出来るのでしょうか?

参考資料:
Jec A. Ballou. Single Sport vs. Cross-Training. HorseJournals, Blogs: Feb 9, 2023.

確かに、特定の専門種目に集中して調教をすることで、迅速かつ的確に上達できるという主張が多くあります。一方、運動生理学的な観点から見ると、多様なトレーニングをすることの利点もあると言えます。



簡単に言えば、クロストレーニング(専門種目以外のトレーニングを実施させること)により、高いレベルの運動内容を達成するための手段がより多くなります。目標に到達するためには、一つだけでなく、複数の手段を持つことが好ましいのかもしれません。何故なら、より多くの調教ツールを持つことにより、反復的な動きばかりを行なわせるのを回避して、神経筋パターンがより速く反応するように変更させることが可能となります。

ヒトに利き手があるように、多くの馬は「優位側(Dominant side)」を持っているため、その方向に馬体を傾けたり流れたりする傾向があります。この優位側の方向へと馬を曲がらせたり、円を描いて走らせたりすると、地面に対して傾いたバイクに乗っているような感覚があります。馬体のアライメントに、このようなゆがみがある馬では、駈歩が不整になったり、内方姿勢が取りにくくなったり、脚の扶助に反応しなかったりする事があります。

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馬が優位側を持っている場合、それに対応する前肢は強くなるだけでなく、筋膜癒合や筋肉の緊張によって体躯に「くっついて」しまいます。この結果、優位側のほうの肩甲骨は、各歩ごとに肩甲骨が後方回転するために必要となる、十分な可動域を失ってしまうことに繋がります。つまり、肩関節の一方が、前方に「く」の字に固定されたようになり、言わば、肩が固まっている状態に陥ってしまいます。これを矯正するためには、私たちの仕事は、肩甲骨が各歩ごとに、完全に後方に回転するのを助けて、より優雅で躍動的な動きをさせる事になります。



一般的に、馬場馬術(ドレッサージ)では、巻き乗り、ショルダーフォア、ショルダーイン(肩内)などの練習をして、目指す蹄跡の弧よりも肩が内側に入ってくる場合には、内方姿勢を取らせると共に、肩を十分に持ち上げる(前肢を屈曲させる)ように促すことが大切です。しかし、馬は賢いので、自分の体の位置を僅かに変えて、肩を持ち上げて後ろに引くのを避けようとします。時には首を硬直させて、顎や頭を一方に押し出したり、スピードを変えたり、息を止めたり、臀部を蹄跡からずらしたりすることがあります。これらの馬体の動きによって、目指しているトレーニング効果が得られない可能性があります。

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ヒトに例えて言うならば、私が腕立て伏せをするときに、体を少し捻じることで、格段に楽になるという状況と同じです。これをすると、腕立て伏せをやっているように見えても、望んでいるトレーニング結果が得られない事もあります。見た目は小さな変化であっても、目指している有効な運動目標に到達できなくなってしまうのです。

幸いにも、私たちは、毎日の調教をルーチン化して、同じ失敗を続けてしまうのではなく、クロストレーニングを実施して、多様な運動様式からのメリットを利用することで、上記のような問題を排除することができます。トレーニングは、ハードに行なうのではなく、賢く行なう必要があるのです。



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前述のような馬体が曲がっている馬の例では、その馬を野外騎乗に連れ出して、坂道をくだるように乗ることが優れた補完的運動となります。馬が降坂するために必要なバランスは、馬体に対して十分な肩甲骨の回転を要求することになります。このため、優位側の肩甲骨の可動域を向上させる効能が期待されます。そして、馬が安全に降坂するためには、左右の前肢に、負荷を均等化させる必要が出てきます。このため、坂道をくだる運動を繰り返すことで、徐々に非対称な動きのパターンが対称的になっていきます。

馬体が曲がった馬は、野外騎乗に出かけて、坂道をくだる時間を過ごした後、アリーナでより良い円運動をすることが殆どです。その結果、バランス維持をつかさどる筋力を強化するためのトレーニング効果も、格段に高めることが可能になるのです。これは、課題を解決するために、複数の調教ツールを応用することの利点の一例です。

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この記事の筆者は、「優れた馬場馬は、安全に野外騎乗をこなして、自ら障害物を飛び越えるものだ」という、Gerd Heuschmann博士(ドイツの著名な調教師)の言葉を挙げています。私たちが、馬場馬のトレーニングの核心を突くためには、バランスの取れた、リラックスした運動をさせるという目標を維持しながら、古風だが優れたクロストレーニングを取り入れることも検討してみても良いのかもしれません。

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