馬の「ハミ跛行」の原因はアゴの痛み?
馬の飼養管理 - 2023年05月24日 (水)

一般的に、馬の「ハミ跛行」とは、馬が頭絡や鞍などを装着して騎乗運動している時だけ見られる歩様の異常を指しています。このため、口内でのハミ位置の問題や、歯科疾患の存在、鞍の装着の不備、屈頭姿勢を取らせることによる頭頚部の疼痛などが原因となり得ます。
参考資料:
Alexandra Beckstett, The Horse Managing Editor. Rein-Lameness Associated With TMJ Pain in Horses: Temporomandibular joint inflammation might be an overlooked cause of poor equine performance. The Horse, AAEP Convention 2022, Article, Injuries & Lameness, Sports Medicine. Jan 5, 2023.
馬のハミ跛行は、プアパフォーマンスの原因になりますが、その病態を正確に診断して治療するのが難しい場合があります。しかし、近年では、顎関節(TMJ: Temporomandibular joint)に痛みがあることで、ハミ跛行の症状を呈する可能性があることが指摘されています。サスカチュワン大学のジェームズ・カーモルト獣医師は、顎関節とパフォーマンスの関連性を研究しており、2022年の全米獣医師協会(AAEP)の学会でその研究結果を発表しています。

カーモルト獣医師によると、顎関節の病理学的変化は加齢に伴って蓄積されていき、この関節に炎症を引き起こすと、咀嚼障害などの臨床症状を起こすと説明しています。そして、顎関節の炎症が、馬のパフォーマンスに影響を与える可能性も指摘されており、ヒト医療の研究においても、顎関節症と運動能力との関連性が示唆されています。
カーモルト獣医師の研究では、顎関節の炎症が、馬の動きと手綱の張力にどのような影響を与えるかを評価するために、六頭の健常馬をトレッドミル上で速歩させて、その際の手綱にかける張力との関連性を解析しました。そして、これらの馬の顎関節にリポ多糖類を注射して炎症を誘発し、その状態でトレッドミル運動させて、手綱の張力による影響を評価しました(十日後に反対側の顎関節を用いて同じ実験を実施)。
この実験では、手綱の操作者は、どちら側の顎関節に注射されたかは分からなかったものの、注射された側に対する手綱を引くことで、馬が過剰反応するのを感じられたと述べています。この主観的な所見は、客観的な歩様解析によって確認されました。ただし、この際にも、典型的な跛行症状が認められなかったことが示されています。

このため、カーモルト獣医師の研究チームは、顎関節の炎症がハミ跛行を引き起こす原因になる可能性があると推測しています。実際の臨床症例においても、顎関節おける疼痛が、プアパフォーマンスを示す一つの要因になりうると考えられ、その疑いがある症例に対しては、獣医師による精密検査を行なうメリットがあると言えるかもしれません。
しかし、馬の顎関節炎は、有病率はそれほど高くなく、診断麻酔や画像診断によって、顎関節部への疼痛の限局化および病変の確定は、技術的に困難な場合も多いことが知られています。このため、カーモルト獣医師は、顎関節の痛みの診断をする前に、ハミ跛行を起こし得る他の原因を全て排除することを忘れるべきではないと提唱しています。
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