馬の文献:離断性骨軟骨炎(UpRichard et al. 2013)
文献 - 2023年05月26日 (金)

「競技馬の大腿骨外側滑車の骨軟骨症状に対する関節鏡治療の結果」
UpRichard K, Elce YA, Piat P, Beauchamp G, Laverty S. Outcome after arthroscopic treatment of lateral femoral trochlear ridge osteochondrosis in sport horses. A retrospective study of 37 horses. Vet Comp Orthop Traumatol. 2013;26(2):105-9.
この症例論文では、馬の骨軟骨症(OC)での外科的治療の効能を評価するため、2000〜2010年にかけて、カナダのモントリオール大学の獣医病院において、大腿骨の外側滑車のOC病変に対して関節鏡手術が適応された37頭の症例における、医療記録の回顧的解析および長期的予後の評価が行なわれました。
結果としては、長期的な経過追跡ができた29頭のうち、関節鏡の手術後に意図した用途まで完治した馬は65.5%(19/29頭)となっていました。その他の症例馬を見ると、17.2%(5/29頭)は慢性跛行のため騎乗不可でしたが、残りの17.2%(5/29頭)は騎乗可能でしたが、意図した用途のレベルまでは回復していませんでした。また、関節鏡のあとに、短期的な合併症が見られたのは27%(10/37頭)で、これには、持続性跛行や関節膨満が含まれましたが、そのうち過半数は治癒していました。
この研究では、大腿骨の外側滑車のOC病変は、長さは平均35.1mmで、深さは平均7.2mmでしたが、この病変の長さや深さは、関節鏡後の長期的な完治率とは有意には相関していませんでした。ただ、短期的な問題(術後の半年間での持続性跛行や関節膨満)の発生率は、病変が深いほど有意に起こり易いことが分かりました。なお、外側滑車の全長に占めるOC病変の長さは、平均24.5%(範囲6.1〜49.7%)となっていました。
この研究では、大腿骨の外側滑車だけにOC病変が起こった馬では、完治率が90.9%(10/11頭)に上ったのに対して、外側滑車以外の部位(膝蓋骨や内側滑車など)にも病変が起こっていた馬では、完治率は50%(9/18頭)に過ぎなかったことが報告されています。一方、症例馬の年齢があがるほど予後が悪くなる傾向も認められ、一歳ごとに完治率が15%下がることが示唆されています(統計的な有意性は無し)。
このため、競技馬の大腿骨外側滑車におけるOC病変に対しては、関節鏡手術を介した外科的療法によって、中程度の予後が期待され、健常歩様まで回復する馬の割合も比較的に高いことが示されました。この際、外側滑車の病変サイズ自体は、予後を左右する主要因にはならないものの、関節の他の部位に異常があった場合には、完治率が明瞭に低くなるため、術中に関節腔全域を精査して、併発病変の存在や重篤度を評価することで、正確な予後判定に努めることが重要だと考えられました。
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