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健康な肢でも運動後に水冷すべきか?

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乗用馬の騎乗後には、冷水を掛けたり、氷冷ブーツの装着などで肢を冷やす措置がよく行なわれています。しかし、怪我や故障をした肢を、治療する目的で冷やす以外にも、問題の起きていない健康な肢でも冷やすべきか?というのは自然な疑問だと言えます。ここでは、運動後の水冷が、怪我や故障の予防になるのかを解説した知見を紹介します。

参考資料:
Matt Leshaw, DVM. Can Cold Therapy Safeguard Sport Horses From Injury? Should you cold hose or ice your horse’s legs after riding? The answer is more complicated than you might expect. The Horse, Commentary, Horse Care, Lameness, Performance Horse Health Commentary Series, Sports Medicine: Jan 21, 2023.

古典的に、ヒト医療でのスポーツ関連疾患において、“ライス”(RICE)という語呂合わせが用いられており、これは、休息(Rest)、氷冷(Ice)、圧迫(Compression)、挙上(Elevation)の頭文字を取っています。これに準じて、競技馬の獣医療においても、水冷療法や氷冷療法が頻繁に実施されてきました。最近の知見を検索すると、馬の運動器疾患への治療として、水冷は推奨されていますが、その一方で、水冷療法の効能は、昔から言われている程は高くないという提唱もなされています。

古来より、ヒトのスポーツ選手が、運動をした後に、冷水に全身を浸している光景を目にしますが、それに類似して、FEIレベルの総合馬術競技でも、多くの馬が氷水の入った水槽に肢を浸している光景が見られます。肢を冷やすことによる急性疾患への利益はあると理解されていますが、慢性疾患に対する効能については論議があります。研究者によれば、水冷することは神経伝達を減退させ、疼痛を緩和することで、強運動からの回復に寄与すると言われています。

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近年の研究では、痛みを減らすことは、必ずしも機能回復やパフォーマンス向上に繋がるとは言えない、という知見も示されています。ただ、肢端にある腱靭帯組織は、強運動によって過剰に熱を持ってしまうことで、組織の虚弱化と微細損傷を誘導するリスクがあるため、運動後に水冷や氷冷を行なうことで、腱炎や靭帯炎を予防する効果が期待できると考えられます。また、以前に故障した腱靭帯は、損傷を再発する危険性もあるため、予防的な水冷療法を行なう利点はあると推測されます。

前述の効能を得るためには、肢を冷やす温度は10~15℃が好ましいと言われていますが、夏季においては、水道水を肢にかける事では、この温度以下にはなりにくいかもしれません。勿論、氷冷では、水道水をかけるよりも、低い温度を達成できる可能性もありますが、季節によっては、その低温度を長時間持続できない場合もあります。ただ、アイスブーツを正しく用いることで、低温度と圧迫を両方作用できるため有益だと言えます。

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実際のところ、健康な肢を運動後に冷やすことで、怪我や故障を完全に防げるかは分かりませんし、運動負荷からの回復をサポートしたり、パフォーマンスを向上できるかは未知数だと思われます。おそらく、水冷することが、故障を予防する免罪符にはなり得ないと考えられます。より大切なのは、運動の直後や翌朝に、肢の熱感や腫れを慎重に触診して、必要に応じて十分な休馬日を置きながら、運動器への微細損傷を蓄積させないことが、怪我や故障を予防するには重要だと言えるでしょう。

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このエントリーのタグ: 疾病予防 運動 腱靭帯疾患 関節炎 飼養管理 跛行

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